脳神経検査
その障害は、日常生活への影響も大きいため、病院などで提供される医学的リハビリテーションの現場では、高次脳機能障害や認知症などと同様にその影響を考慮し、目標設定や訓練内容、生活環境の設定を行う必要があります。
その為に必要な脳神経検査。当然ですが、理学療法士の実習や国家試験のみならず将来的にも大切な知識ですので御説明します。
12脳神経検査を方法・評価尺度・注意点で解説
1.嗅神経(神経核:終脳)- 検査:被検者は閉眼してもらう。片方の鼻孔を手でふさぎ、刺激の弱い香料(石鹸、コーヒーなど)を使い、臭いの有無や種類を聞く。これを両側行い左右を比較する。
- 評価尺度:匂いが全く感じられない嗅覚消失、匂いはするが何かはわからないなどの嗅覚低下、匂いが強く感じられる嗅覚過敏などがありますが、鼻炎など他の嗅覚低下要素の影響も考慮する必要があります。
- 注意点:過去の生活歴の中で嗅いだ事のない匂いは表現できない為、一般生活に使われるようなものを準備したほうがよいです。
- 検査:厳密には視野計を使い測定するのが良いですが、対座法を用いる場合が多いです。対座法では、被験者と約80cmの間隔で向き合って座ります。被検者には片側の眼を閉眼してもらい、反対側の眼で検査者の差し出した指先をみつめてもらいます。その状態で検査者はもう一方の指先を動かして、どのぐらいの範囲で被検者が指の動きを感知できるかを確認します。
- 評価尺度:被検者が正面を向き、両側に80°ほど確認できれば正常と判断します。
- 注意点:視野の検査となる為、検査時は眼球が動いていないか十分注意して行って下さい。
- 検査 1:眼瞼
- 検査法:眼瞼を観察する
- 評価尺度:左右眼裂の比較をし眼瞼下垂の有無などを確認
- 検査 2:眼球
- 検査法:眼球を観察する
- 評価尺度:眼球の突出、陥没、斜視、共同偏倚の有無を確認
- 検査 3:瞳孔
- 検査法:瞳孔を観察する
- 評価尺度:瞳孔の大きさに左右差がないか?形が正円か?
- 検査 4:眼球運動
- 検査法:眼前30~50cmに検査者の指や指標を置き、眼球運動だけで指標を追わせます。頭部が動く場合、動かさないように被検者の頭を軽く押さえて行う。頭部は心理的にもデリケート箇所なので十分配慮する必要があります。
- 評価尺度:眼球の動きは正常を(0)、完全マヒを(-4)と5段階で表現する。例として動きが半分なら(-2)となる。※記載用紙や記載例は右記画像を参考にして下さい。
- 検査 5:眼振
- 検査法:眼球運動の検査時に眼振の様子も確認する。
- 評価尺度:眼球の動きに応じ、右記画像のように記載する。
- 注意点:他にも対光反射や毛様体反射等の検査項目があるが、上記5項目を主に検査する事が多い。
6.三叉神経
- 検査 1:感覚機能
- 検査法:三叉神経の3分枝(眼神経、上顎神経、下顎神経)における支配領域にて、それぞれ痛覚・温度覚・触覚を検査する。
- 評価尺度:左右の感覚に違いがあるかを比較する。
- 検査 2:運動機能
- 検査法:閉口時の筋力、収縮の有無や観察
- 評価尺度:閉口時の筋収縮の有無。開口時の下顎の障害側への偏倚、左右への下顎の動きがないか?など。
- 検査 3:角膜反射
- 検査法:被検者に検査者の指などをみつめてもらい、視野の外から脱脂綿の先などで角膜を軽く刺激する。
- 評価尺度:正常であれば両眼を素早く閉じる。
- 注意点:角膜反射による刺激は不快感を感じる方が多いので、実習時などは行わない場合もある。
- 検査 1:顔つきの観察
- 検査法:顔の対称性、口角の動き(麻痺側で遅くなる)、鼻唇溝の深さ(浅くなる)、眼裂の幅(開大する)など
- 検査 2:上顔面筋の運動機能
- 検査法:眉を挙上してもらう。
- 評価尺度:障害側では額にシワが寄らない
- 検査 3:下顔面筋の運動機能
- 検査法:上下の歯を噛み合わさせた状態で開口してもらう。(唇を開いて歯をむき出しにする)頬をふくらまさせる。口をへの字にしてもらう。
- 評価尺度:障害がある場合、歯のかみ合わせでは障害側で鼻唇溝が浅くなったり、開口も不十分になる。また、頬をふくらませることやへの字口が困難になる。
- 検査 4:味覚
- 検査法:綿棒などを使って、少量の砂糖、塩、クエン酸、キニーネの溶液をつけ舌に塗り、どんな味かを答えてもらう。この検査は舌の前2/3で行い左右を比較する。
- 評価尺度:甘み、からさ、すっばさ、苦みに関して左右差がないかを確認する。
- 検査 5:眼輪筋反射
- 検査法:検査者は母指と示指で被検者の外眼角外側にある皮膚をつまむ。検査者の母指を打腱器で軽く叩く。
- 評価尺度:正常なら叩いた側の眼輪筋が収縮する。※わずかに反対側も収縮
- 検査 6:口輪筋反射
- 検査法:打腱器で上口唇を叩打、または口角に母指を当ててその上を叩打。
- 評価尺度:通常、乳児以外は微弱または欠如する。
- 注意点:検査4、5、6に関しては実習時に行う事は少ない。
- 検査 1:リンネ試験
- 検査法:振動させた音叉を側頭骨乳様突起の上に当てて、音叉から骨に伝わる振動音を聞いてもらう。振動音が聞こえなくなったら、音叉を耳孔から4~5cm離し、空気を伝わって耳に入ってくる振動音が聞こえるか答えてもらう。
- 評価尺度:骨を伝わる振動音、空気を伝わる振動音の両方聞こえる場合は、正常となる(Rinnne+)空気を伝わる振動音が聞こえない場合は(Rinnne-)となる。これは中耳および外耳道の障害を判別する形となる。
- 検査 2:ウェーバー試験
- 検査法:振動させた音叉を額の中央に当てる。
- 評価尺度:左右どちらの耳に強く音が響くか答えてもらう。正常の場合は、左右同じように響くが、内耳より上位の求心性神経に異常がある場合は健側側のみ聞こえる。中耳、外耳道に異常がある場合は、障害側に大きく響く。これは、中耳、外耳の異常で内耳の感度が上がっていることに起因する。
- 注意点:他に前庭機能検査や耳鳴検査などがあるが、理学療法士が行う聴神経検査で行う事は少ない。
- 検査法:被検者に「アーアー」と声を出させ、その際の軟口蓋の挙上、口蓋垂の偏倚、咽頭後壁の収縮の状態を見る。
- 評価尺度:一側の障害では健側に偏倚する。
- 注意点:その他に、咽頭または催吐反射、軟口蓋反射、嚥下などの検査がありますが、理学療法士が実施する事は少ないです。
- 検査法:筋力検査(MMT)を僧帽筋上部線維、胸鎖乳突筋に対して実施。
- 評価尺度:MMT検査評価に準ずる。
- 検査法:被検者に舌を前方に突き出させ舌の状態を観察(偏倚、萎縮、線維束性収縮)します。
- 評価尺度:片側の障害では障害側へ舌が偏倚します。両側の障害または失行では舌の運動不能と判断します。
いかがでしたでしょうか?理学療法士が行う脳神経検査は診断をするものではなく、状態を補足的に捉える為に行うものですので、実際に行う機会は少なく、仮に行っても簡便に行う事がほとんどです。しかし、医療職として重要な知識ですし、実習中に評価させてもらう事はしばしばあります。
専門書では、情報量が多く要約されているものは少ないので、今回の記事を参考にして、少しでも12脳神経評価の評価方法を理解していただけたら幸いです。
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