理学療法士/理学療法士になるための勉強法・養成校

理学療法士を目指す人に知ってほしい高次脳機能障害

昭和40年代あたりから右肩上がりに増えている脳卒中。交通外傷による脳障害も含め、その後遺症で起こりやすい高次脳機能障害は日常生活を送る上で大きな障害となります。当然、リハビリテーションを考える上でもその知識や対処は必須となりますのでしっかり学んでおきましょう。

野田 卓也

執筆者:野田 卓也

理学療法士試験ガイド

理学療法士undefined高次脳機能障害undefined評価

高次脳機能障害と一言でいってもその病態は様々です。障害部位や主症状、評価法を知る事はリハビリテーションだけでなく、国家試験でも問われる重要な知識になります。

高次脳機能障害とは、事故や病気などにより脳損傷が発生した際、認知機能(記憶・学習、言語理解・表出、遂行機能、視空間認知機能、構成機能など)に障害が起きた状態をさします。
脳血管障害がある方への医学的リハビリテーションでは、この高次脳機能障害を有している方が多く、その状態について評価し把握する事は、訓練の目標、内容を決める上でとても重要になります。

そこで今回は、高次脳機能障害の症状や評価法などについて、一緒にみていきたいと思います。

高次脳機能障害に対する評価の前に

高次脳機能障害の評価は現場において、作業療法士や言語聴覚士が行う事が多いのですが、理学療法士が「何も知らなくていい」という事はありません。先にも述べましたが、理学療法士が行う運動指導やそれを通じて目指す生活目標設定において、高次脳機能障害が及ぼす影響は大きいため、状態把握が大切になるのです。

そこで、評価に入る前に必ずカルテ情報より、病歴、MRIやCTなどの脳画像所見の確認をします。これは、事前情報により脳の障害部位を把握することで、おおよそどういった障害が起きているかを推定する為に行います。以下に障害別の脳局在部位やその症状について羅列致しますので参考にしてください。ただし、これらはその場所が障害されると確実に起きるというものではなく、個人によって症状は多様であるため、注意が必要です。

言語機能障害の障害部位・主症状・評価法

1.全失語
  • 障害部位:優位半球前頭葉~優位半球側頭葉
  • 主症状:言語の表出、理解、復唱すべてが困難になる。
  • 評価法:標準失語症検査(SLTA)、WAB失語症検査日本版、失語症鑑別診断検査
2.ブローカ失語
  • 障害部位:優位半球前頭葉
  • 主症状:言語理解は可能だが、発語、書字ともに言語の表出が困難になる。
  • 評価法:標準失語症検査(SLTA)、WAB失語症検査日本版、失語症鑑別診断検査
3.ウェルニッケ失語
  • 障害部位:優位半球側頭葉
  • 主症状:言語の表出はありますが内容意味不明。言語理解が困難。
  • 評価法:標準失語症検査(SLTA)、WAB失語症検査日本版、失語症鑑別診断検査
他、言語野のある優位半球の障害では、以下の言語機能障害も疑われます。なお、評価法は上記の失語症評価に準じます。

4.伝導失語
  • 主症状:言語の表出、理解は可能ですが、言語復唱が困難。また、錯読、錯書が出現します。
5.健忘失語
  • 主症状:言語理解、復唱は問題ないですが、錯語が出現し物事の伝え方が稚拙になります。
6.超皮質性運動失語
  • 主症状:自発言語が著しく減少し、短文での発語となります。言語理解はやや時間がかかることもありますが十分理解可能です。
7.超皮質性感覚失語
  • 主症状:言語理解が乏しくなり、錯語や喚語困難などが起きます。
8.失読
  • 主症状:視覚に問題がなく、認知機能も保たれ、意識状態も清明であるにもかかわらず、文字、文章理解が困難となる。
9.失書
  • 主症状:運動機能に問題がなく、認知機能も保たれ、意識状態も清明であるにもかかわらず、自発書字や書き取りができない。
失語症は、話す、書くなど言語を表出することや、聴く、読むなど言語を理解する事が困難になった状態をいいます。また、評価は視力、聴力、発声能力(声帯の運動機能など)、知能、精神機能などコミュニケーション能力を事前に確認していないと評価結果の信憑性は乏しくなるので注意したいところです。

失行の障害部位・主障害・評価法

1.肢節運動失行
  • 障害部位:左右いずれかの前頭葉
  • 主症状:学習された協調運動、連続的な運動に稚拙さが出る。
  • 評価法:手足の曲げ伸ばし、まばたき、舌の出し入れ、起立、歩行などの動作を指示し実行状況を観察する。
2.観念運動失行
  • 障害部位:優位半球頭頂葉
  • 主症状:指示された動作の再現、動作の模倣ができなくなる。
  • 評価法:グーチョキパーのものまねや歯を磨くしぐさなどをマネしてもらう。
3.観念失行
  • 障害部位:優位半球頭頂葉後方から後頭葉
  • 主症状:くしで髪をとく。歯ブラシで歯を磨くなどの道具を使った動作がうまくできなくなる。
  • 評価法:櫛で髪をとく、歯を磨くなど、日常で使用する物品を正確に使用できるか評価する。
4.構成失行
  • 障害部位:左右いずれかの頭頂葉
  • 主症状:図形や形態の構成、配列の再現ができない。
  • 評価法:図形の模写やマッチ棒などでの図形構成
5.着衣失行
  • 障害部位:劣位半球頭頂葉 後頭葉
  • 主症状:衣服の着脱がうまくできなくなる。
  • 評価法:衣服の着脱動作を指示し、その様子を観察する。
失行は、基本動作やADL動作においてその影響が大きく、患者さんの日常的な動作で障害の有無や影響を観察し考察する事がしばしばあります。よって、どんな場面でも患者さんの動作を観察し、生活面での影響を考慮していく必要があります。

次ページでは、失認について御案内します。

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