ガバナンスの基本は、取締役会が正常に機能すること
東芝問題で最近頻繁に耳にするようになったガバナンスという言葉。その正式名称は、コーポレート・ガバナンスです。最近では頭文字をとって、CGの略称で呼ばれることもしばしばあります。その一般的な和訳である「企業統治」という言葉は、どうもあいまいで分かりにくい用語に思えます。取締役会の機能がガバナンスのカギを握っている
こうしてガバナンス本来の意味を考えてみると、東芝のケースは同社の取締役会が正常に機能していなかったことの帰結であると言えそうです。なぜなら、代々の社長が不適切会計を求めるかのような要望を部下に繰り返していたとすればこれはマネジメント側の暴走であり、取締役会が正常に機能していたなら、これを抑止し思いとどまらせることができたはずだからです。
取締役会と代表取締役の関係
取締役会が企業の長である社長を抑止するとはどういうことか。ここで、取締役会と代表取締役との関係を説明しておきましょう。取締役会は代表取締役を選定するとともに、業務執行に関する会社の意思決定や代表取締役を含む取締役の業務執行を監督する役割を担っています。つまり、「代表取締役を含む各取締役の独断専行をけん制し、それを抑止する権限と義務を有する(会社法第363条第2項)」のです。具体的には、取締役一人ひとりは善管注意義務と忠実義務というものを負うと民法で義務付けられています。善管注意義務とは、「善良なる管理者の注意を持って業務執行を行う義務」であり、忠実義務とは、「会社のために忠実にその職務を遂行する義務」のことです。一言で言うなら取締役間の相互けん制およびリスク管理と会社への忠誠義務です。しかもこの二つの義務は、単に形式的に義務を果たしているだけでは不十分で、実際に行動に移すなどの「実質的」に行われる必要が求められているのです。
東芝のケースをみましょう。例えば、「チャレンジ」と称した業務改善命令が「不適切会計」への引き金になったのでは、とメディアでも取り上げられています。もしこの「チャレンジ」なる命令にたいして「不適切会計に手を染めざるしかない」と他の取締役が察知していたならば、その段階で取締役間の相互けん制として、「その指示はおかしい」とハッキリ社長に伝えて拒否すべきでした。これは忠実義務の観点でも、「会社に損害を及ぼす恐れがある指示命令」との判断からそうすべきだったでしょう。そしてそれでもなお社長が強硬な指示を続けるのであれば、取締役会での社長の解任決議に持ち込むなどの対応をとることがあるべき正しい道筋でもあるのです。