彩吹真央 大阪府出身。94年に宝塚歌劇団に入団、男役スターとして活躍後、2010年に退団。『SHOW-ism「DRAMATICA/ROMANTICA」』『ロコへのバラード』『モンティ・パイソンのスパマロット』『道化の瞳』『サンセット大通り』『シラノ』『モンテ・クリスト伯』『ラブ・ネバー・ダイ』などに出演し、ライブ活動も行っている。(C)Marino Matsushima
10代で『オズの魔法使い』に主演、ハリウッドを代表する女優の一人となりながら、薬物やアルコール依存に苦しみ、47歳で波乱の人生を閉じたジュディ・ガーランド。晩年、コンサートのために訪れたロンドンでの彼女とその若い恋人、そしてピアニストの葛藤が、コンサート・シーンを差し挟みつつ描かれたのが『End of the Rainbow』です。
心身ともにぼろぼろの状態ながら、歌う時だけは何かに憑かれたかのように、入魂の歌を聴かせるジュディ。この壮絶なヒロインを演じるのが、2010年に宝塚を退団後、『サンセット大通り』、SHOW-ismシリーズ、『シラノ』『道化の瞳』等で活躍中の彩吹真央さん。多彩な役柄を的確に演じ分ける彼女にとっても、今回は極めつけのお役となりそうです。
伝説のスターの壮絶な晩年を描く作品に
体当たりで挑戦
――今、撮影でとても柔らかな表情を見せていただきましたが、今回のお役はそれとは対照的な激しさですね。ここまでのお役を演じられたことは…。「ないですね、いろんな意味で(笑)。台詞量もそうですし、人間としての喜怒哀楽の激しさ、歌の数、場面の数、すべてひっくるめて私史上初です。先日まで『アドルフに告ぐ』のエヴァ・ブラウン役で実在の人物は演じていましたが、実在した伝説のエンターテイナーを演じるのは初めてです」
『アドルフに告ぐ』
「初めて認識したのは映画の『オズの魔法使い』ドロシー役の彼女で、宝塚に入る前に観ていましたし、フランク・シナトラの時代の音楽が好きな父の影響で、それ以降の彼女の歌も聴いていました。宝塚に入ってからはジーン・ケリーやフレッド・アステアのDVDを良く観ていましたが、そういう作品にジュディが相手役で出ていることもあって、人生のところどころで触れる機会はありましたね」
――どんなイメージをお持ちでしたか?
「ドロシーを演じた10代の頃の彼女はとても歌がうまくてかわいかったけれど、大人になってからも技術的にすごくうまい女優さんだったイメージですね。あとはライザ・ミネリのお母さんであり、薬物依存で、ちょっとかわいそうな人生を送ったという印象がありました」
――その薬物依存、本作の台詞にも出てきますが、なんと少女時代からだったのですね。
「14歳くらいから、お母さんや会社の人に“痩せるために”“寝る暇がなくても大丈夫なように”あるいは逆に“睡眠薬として”と、いろいろ飲まされてきてしまったんですね。今回のお芝居では幕が上がったとたんハイテンションな彼女が出てきて、驚く方もいらっしゃるかもしれませんが、台詞の中に、ところどころ子供の頃のそういった経験を話している部分もあるので、そこからお客様には背景をキャッチしていただけると思います」
――彼女の薬物依存にどれだけ共感というか心を寄せられるかが、観客にとっては重要になってきそうですね。
『End of the Rainbow』
――宝塚は「清く正しく美しく」という場所ですし、生徒さんやOGの方々は健康的なイメージがありますので、今回は真逆の役どころかと思います。そこに挑戦することに迷いはなかったのですか?
「真逆…本当だ!(笑) 確かによく“健康的ですね”とは言われますが、そこに関してはまったく恐怖感はなかったです。薬物依存、アルコール依存に加えて、台本には宝塚では絶対聞けないような下品な言葉も行為もたくさんあります。でも全然怖くないし、台本に書いてあることは実際やりますよ(笑)、ジュディ・ガーランドがそうだったのだから。お客様としては“彩吹さんの口からそんな言葉が…”ということがあるかもしれませんが、そこは早くなれていただいて(笑)。観終わる時には、そんなことは関係なくなります。初めて台本を読んだときに“おっ”と思うところはたくさんありましたけど、やりたくないという気持ちは全くなくて、“やりたい”という気持ちにしかなりませんでした」
*『End of the Rainbow』トーク、次ページにまだまだ続きます!