この「記憶」なしでは読むこともできない
酔って仕事をしているのと同じかも?
記憶の研究において、最近注目されている概念です。
この「作業記憶」。私たちが仕事や日常生活を過ごすうえで、とても大きな働きを果たしています。実は今、この文章を読んでいるときにも、この「作業記憶」を使っているから読むことができるのです。
「え? 読むときに記憶なんて使っていませんよ」
そう思う人も多いかもしれませんが、もし、読んだ瞬間からどんどん忘れていくとしたらどうでしょう? まったく理解できず、読み続けることができないと思いませんか?
また、95-38=?といった暗算するときにも作業記憶を使っています。「90から30を引いたら60」とこの「60」という数字を作業記憶で覚えながら「5から8を引くと……」と計算するので、暗算できるのです。
これまでは「記憶している」なんていう自覚はなかったかもしれませんが、この「作業記憶」なしには文章を読んだり、計算したりすることもできないのです。
「脳のメモ帳」にもたとえられる作業記憶。実はこの使い方の違いによって、あなたの仕事の生産性は大きく変わるのです。
集中力がない……の原因は記憶のムダ使いにあり!
この作業記憶にはとても大事な特徴があります。それはその容量が限られている、ということです。このため、作業記憶のムダ遣いはできるだけ避けることが大事になります。でも、実際にはムダ遣いしてしまっていることが多いのです。
あなたのパソコンの処理スピードが遅くなったと思ったら、あれこれインストールしたソフトが常駐していて、常にメモリを食っていたということはありませんか?
これと同じように、作業記憶が、その容量をフルに使える状態ではなく、常に何かに使われてしまって、あなたのパフォーマンスが落ちていることがあるのです。
特に影響の及ぶのが集中力。つまり、何かに注意を向け続けることです。
この作業記憶は、何かに集中したり、注意を払うときに必要です。このため、作業記憶が不足していると、注意が散漫になったり、大事なことを見落としたりすることになるのです。
たとえば、携帯電話で「電話しながら歩き」。さらには、最近では、スマートフォンの「画面見ながら歩き」もありますね。
電話で話をしたり、スマホでメールを読んだりするためには、作業記憶を必要とします。それによって作業記憶が不足して、注意が散漫になって、人とぶつかったり、駅のホームから転落するといった事故を起こしやすくなってしまうのです。
注意力が散漫になる状態といえば、お酒を飲んだ状態があります。
携帯電話やスマホを使いながら……というのは、ある意味、酔っ払っている状態ともいえるのです。
「スマホを見ながら歩かないようにしていますよ」と言っているあなた。
でも、ついついスマホを見ながら何かをしているときってありませんか?
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