ミュージカル/注目のミュージカルレビュー・開幕レポート

2015年7~8月の注目!ミュージカル(4ページ目)

今年も暑い夏が巡ってきました。避暑にぴったりの劇場街では、冷房もかき消されるほど?熱いコンサート『cube三銃士コンサート』や、濃厚な愛憎劇『サンセット大通り』に不朽の名作『南太平洋』、夏休みに家族や知人の子供たちと観たい『サウンド・オブ・ミュージック』等が待機中。開幕後は観劇レポートを随時アップしてゆきますのでお楽しみに!

松島 まり乃

執筆者:松島 まり乃

ミュージカルガイド


王子とこじき

7月25日~8月23日=自由劇場、9月21日~10月4日=京都劇場 ほか全国公演あり

『王子とこじき』

『王子とこじき』

【見どころ】
16世紀のイギリス。貧しい家に生まれたトムとヘンリー八世の子として生まれたエドワード王子は、ひょんなことから出会い、顔がそっくりだったことから衣服を取り換え、互いになりすます。身なりに惑わされた大人たちのせいで、二人は次々に騒動に巻き込まれるが……。

マーク・トウェインの原作を、俳優の石坂浩二さんが若かりし日に脚色。真実を見極めること、そして真実を勇気を持って口にすることの大切さを描いた劇団四季ファミリー・ミュージカルが、久々に再演されます。初演は1967年ですが、今回の加藤敬二さんによる振付には随所に「今」のテイストが差し挟まれ、重厚感溢れる衣裳も魅力。いずみたくさん、佐橋俊彦さんによる音楽も親しみやすいものの、あまり上演頻度が高いわけではない作品の貴重な公演ですので(前回公演は2006年)、未見の方はぜひお見逃しなく!
『王子とこじき』撮影:下坂敦俊

『王子とこじき』撮影:下坂敦俊

【観劇ミニ・レポート】
ファミリー・ミュージカルには“とにかく音楽が素敵な作品”“キャラクター設定が面白いもの”などいろいろなタイプがありますが、本作はとりわけ主人公、エドワード王子の奮闘過程が見どころ。歌(心躍る主題歌「真実の歌」で観客参加のシーンも有り)やダンス(ヒップホップ調も有り!)はもちろん、笑いも随所に取り入れた親しみやすい作品ではありますが、トムと衣服を交換した結果、城を追い出され、アイデンティティ喪失の危機に陥ったエドワードが、困難を乗り越えて“本当の自分”に戻ってゆくまでのドラマがしっかり芯にあることで、見ごたえのある舞台に仕上がっています。
『王子とこじき』撮影:下坂敦俊

『王子とこじき』撮影:下坂敦俊

このエドワード役を、今回のキャスト、小松加奈さん(守山ちひろさんとのwキャスト)は「ぼろ」をまとってからも毅然とした姿勢と口跡を保ち、物語をしっかりと牽引。どんな目に遭っても気丈にふるまい、観ている側が自然と「頑張れ!」と感情移入したくなってくるエドワードを演じています。
『王子とこじき』撮影:下坂敦俊

『王子とこじき』撮影:下坂敦俊

いっぽう、彼と入れ替わるトム役の木内志奈さん(前田更紗さんとのwキャスト)は貧しくとも自由な少年をのびのびと演じ、王ヘンリー八世と泥棒親分の二役を楽しげに演じ分ける川地啓友さん(荒井孝さんとのwキャスト)、エドワードの窮地を助ける没落貴族を頼もしく演じる白倉一成さん(阿久津陽一郎さん、田中彰孝さんとのトリプルキャスト)、暴力的だが根は悪いとは言えないトムの父役におかしみを漂わせる福島武臣さん(江上健二さんとのwキャスト)らとともに、物語世界を生き生きと彩ります。今年5月に「こころの劇場」(小学生を対象とした招待公演)で開幕、上演を重ねてきたカンパニーということもあってか、ちょっとした笑いの間合いなどにも安定感の漂う舞台です。

グッバイ・ガール

8月7~23日=東京国際フォーラムホールC

『グッバイ・ガール』

『グッバイ・ガール』

【見どころ】
アメリカを代表するコメディ作家ニール・サイモンの脚本で77年に公開され、アカデミー賞主演男優賞を受賞した同名映画の舞台版(ブロードウェイ初演は93年)。男運のないシングル・マザーのダンサーと、風変わりな俳優の恋の行方が描かれます。

今回の日本版は劇団M.O.Pの主宰者で多数の現代劇を手掛けているマキノノゾミさんが演出。日々の騒動の中で「これが本当の恋?」「この愛を信じていいのかな?」と揺れ動く主人公たちの繊細な心模様を、紫吹淳さん、岡田浩暉さんがどう演じるか。『コーラスライン』のマーヴィン・ハムリッシュが手掛けた音楽も心地よく、夏のデート・ミュージカルをお探しの方には特にお勧めです!
『グッバイ・ガール』

『グッバイ・ガール』

【観劇ミニ・レポート】
まばゆい恋ばかりがミュージカルじゃない!と改めて感じさせるのがこの『グッバイ・ガール』。旬を過ぎたダンサーである主人公のシングル・マザー、ポーラは男運が悪く、尽くしては捨てられ、の連続。対するエリオットは変わり者の売れない役者で、二人は最悪の出会い方をします。言い合いばかりの日々ですが、エリオットが人生を賭けた主演舞台が大失敗に終わったことをきっかけに、二人は急接近。けれども自信の持てない二人は、なかなかもう一歩前に進むことができない…。

軽妙な会話と洒落た音楽で彩りながらも、ニール・サイモンの台詞も最大限に生かし、いわゆる“負け組”の揺れ動く心をじっくりと描いた本作。今回の舞台でも、14人編成オーケストラの厚みのある演奏に包まれ、場面に応じて時に軽快、時にしっとり、そして時に華やかに演じ分ける芸達者たちによって、「良質のミュージカル・コメディ」が立ち現われています。
『グッバイ・ガール』

『グッバイ・ガール』

ポーラ役の紫吹淳さんはシングルマザーとして気を張ってはいるものの、本質的にお人よしでなかなか「本当の幸せ」にたどり着けないヒロインを、のびのびと体現。ダンサー、そして2幕では振付家として踊る場面では、抜群のプロポーションと元・宝塚トップスターならではの堂々とした一挙手一投足で、惚れ惚れとさせてくれます。いっぽうエリオット役の岡田浩暉さんは二枚目の枠を打ち破るハチャメチャなキャラクターを楽しげに表現、「男を演じる女を演じる男優」として『リチャード三世』に主演するシーンでは、ドラッグクイーンも超越した(?)扮装で舞台上の人々のみならず、客席を唖然とさせてくれます。ポーラのアパートの管理人で、皮肉屋に見えていつしか恋の見守り役のようになっているミセス・クロスビー役、中尾ミエさんもいい味。デート観劇作品をお探しの方はもちろん、何かとブルーな気分の方、人生に今一つ積極的になれない方にもお勧めしたい、「じんわり、ポジティブな気持ちになれる舞台」です。


サウンド・オブ・ミュージック

8月9日~12月6日=四季劇場「秋」

『サウンド・オブ・ミュージック』

『サウンド・オブ・ミュージック』

【見どころ】
誰もが知っている「ドレミの歌」はじめ、「エーデルワイス」「ひとりぼっちの羊飼い」など名曲揃いのオスカー&ハマースタイン作ミュージカル。修道女見習いのマリアがトラップ大佐一家との出会いを通て、“本当の自分”に気づき、勇気と愛を支えに新たな人生へと踏み出してゆくさまが描かれます。

7人の子役のかわいらしさ、曲の親しみやすさからファミリー・ミュージカルと思われがちですが、舞台版はナチスの圧力に抵抗する大佐たちの姿を丁寧に描き、政治的メッセージ色の濃い仕上がり。信念のため茨の道を選び、旅立つマリアたちに歌われる「すべての山を登れ」がいっそう感動的に響く舞台となっています。軍隊のような日々を送っていた子供たちが、マリアに音楽の喜びを教えられ、子供らしさを取り戻してゆく変化にも注目を!


【編集部おすすめの購入サイト】
Amazonでミュージカル関連の商品をチェック!楽天市場でミュージカル関連の商品をチェック!
  • 前のページへ
  • 1
  • 2
  • 3
  • 4
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

あわせて読みたい

あなたにオススメ

    表示について

    カテゴリー一覧

    All Aboutサービス・メディア

    All About公式SNS
    日々の生活や仕事を楽しむための情報を毎日お届けします。
    公式SNS一覧
    © All About, Inc. All rights reserved. 掲載の記事・写真・イラストなど、すべてのコンテンツの無断複写・転載・公衆送信等を禁じます