将棋/将棋関連コラム

ユニクロ・松竹歌舞伎・そして将棋(2ページ目)

ユニクロ・松竹歌舞伎・そして将棋。一見、あまり関わりのなさそうな3者である。しかし、実は大いなる接点を持っており、それが、ある商品を生み、ユニクロ店舗を通して世に出ている。今回はその商品と、その接点についてガイドしていく。将棋ファン、夏の一着はこれで決まりである。

有田 英樹

執筆者:有田 英樹

将棋ガイド


歌舞伎と「と」の関係は

隈取り

隈取り

皆さんは、歌舞伎と聞いてどんな図柄を連想されるであろうか?私は、いの一番に独特の化粧法、隈取(くまどり)が頭に浮かぶ。一目見ただけで「これぞ歌舞伎」とすぐわかる、あのド迫力の隈取りである。もちろん、実際にユニクロ・松竹歌舞伎のコラボコーナーには、そんな「これぞ歌舞伎」商品がずらりと並んでいる。だが、この「と」シャツを見て歌舞伎と結びつける人は少ないのではないだろうか。ユニクロが日本将棋連盟と組んだのか、そう勘違いしてしまいそうでもある。

一方で「何の不思議もないわ、歌舞伎も将棋も同じ日本文化なんだから」、そうお考えの方もいるだろう。それも一理ある。だが、だとすると、お茶碗模様だって、お寺模様だって、お遍路模様だって、温泉模様だって、OKになってしまう。それはそれで素敵かも知れないが、ユニクロが松竹歌舞伎と組んだ意味がなくなりそうだ。実は……。実は、歌舞伎と将棋には切っても切れないご縁があったのだ。

掛け声に将棋

かかせない観客からの掛け声

かかせない観客からの掛け声

歌舞伎を実際にご覧になった方もいるだろう。歌舞伎座などの大きな舞台だけでなく、地方のお祭りなどでも演じられることのある日本の伝統文化。もちろん、ネットやテレビの映像でご覧になったことがある方は、さらにたくさんいるだろう。
観劇の際、客席からかかる掛け声をお聞きになったことがあるはずだ。たとえば、「待ってました!」とか「日本一!」などの威勢良い決まり言葉である。発しているのは、大向うと呼ばれる客達。役者の動きに合わせて送られる、この独特の掛け声は、舞台と客席を一体化し、歌舞伎になくてはならぬものになっている。
様々な掛け声の中で中心となるのは、役者の屋号である。例えば、大見得を切る市川海老蔵に大向うから「成田屋っ!」の声。会場の空気が最高潮に達する瞬間だ。さて、ここからが、今回の本丸である。実は、その「屋号」掛け声の中に、将棋ファンにとって、こんな素敵なものがあるのだ。

「いよっ!成駒屋っ!」


出た!成駒である。もちろん将棋の成駒のことだ。ここにきて、とうとう歌舞伎と将棋が結びついた。では、ガイドしよう。

「と」に隠された壮大な物語

「成駒屋」は四代目・中村歌右衛門から始まる屋号である。そもそも初代・歌右衛門は「加賀屋」という屋号だった。初代の故郷、加賀にちなんでつけられた屋号だ。もちろん四代目・歌右衛門も、その流れから言えば「加賀屋」である。だが、ある時、四代目・市川團十郎が 四代目・歌右衛門が大成したことを喜び、「駒が歩からと金になった」と成駒柄の着物を贈った。それをきっかけとして、屋号を「成駒屋」に改めたのである。これ、なんと江戸時代のことである。

いかがであろうか。歌舞伎界も出世、大成を将棋の成駒にたとえていたのだ。将棋ファンとしては、なんとも嬉しいことである。そして、江戸の世に花を咲かせた四代目・團十郎が四代目・歌右衛門に贈った着物が、200年の時を越えて、Tシャツとして生まれ変わったのだ。合点がいった。普通、将棋駒をデザインするなら「王将」や「金将」ではないだろうか。少なくとも「歩」の裏字よりも通りが良さそうだ。しかし、かような歴史的ロマンがあったゆえに、ユニクロ・松竹歌舞伎の成駒柄は「と」と相成ったのだ。

2015年、ガイドが買い求めた「と」シャツ。そこには、壮大な物語が隠されていたのである。日本文化が凝縮された出世シャツ。これをまとったからには、ガラオジとても弱音は吐けぬ。迫り来る酷暑など何のそのである。

「やあ、やあ、夏よ、夏よぉ。目ぇに物見せてくれようぞぉ。さあさ、さあさ、どっからでも、かかってこいっ!」

見得を切る私の耳に声が届いた。
「いよっ!成駒屋っ!」

ああ、ありがたや。今宵は、これにてぇぇ。(幕)

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追記

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