話し方・伝え方

「喝」を入れられたい? 叱られたい人が増加する理由

叱られるのは誰でもイヤなもの。ところが最近「喝」を入れられたい人が増えているそうです。お尻を蹴られる、欠点を指摘されるといったサービスも発生。叱ってもらいたい理由と背景について考察します。

藤田 尚弓

執筆者:藤田 尚弓

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叱られたい人が増加中!?


叱られたい人が増えている

叱られたい人が増えている!?

叱られるのは誰でもイヤな気持ちになるものです。ところが最近、女性キックボクサーにお尻を蹴ってもらう、他人に自分の欠点を指摘してもらうなど「お金を払って叱ってもらう」という驚くべきサービスが注目されています。

「叱られると落ち込む」「傷つく」といった、叱られる耐性がない人が増えていると思っていた筆者ですが、またしても傾向は変わりつつあるのでしょうか。テレビでも、毒舌で人気の有吉弘行さん、坂上忍さん、マツコ・デラックスさんなどが大活躍するなど、辛口のニーズがある様子。にわかには信じられない、でも気になる「叱られ願望」について考察してみました。


職場で増えている「叱らない」マネジメント


打たれ弱く、独特の仕事観を持つことで話題になった「ゆとり世代」も、もはや中堅。叱られ耐性がない部下だけでなく、叱ることができない上司も着々と増えています。

褒めと叱りに関するアンケート(2013年アップウェブ調べ)によると、叱りよりも褒めを重視する人はなんと7割に届く勢い。叱らない理由は「叱り方がわからない」「人間関係の悪化が心配」が上位。中には「叱らずに済むマネジメントを目指している」「叱るのはよくないと思う」という回答もありました。叱られながら仕事を覚えるというのは、もはや昔の話。職場では叱らないほうがよいという文化が定着しつつあるのかも知れません。

その一方で怒りをコントロールできない人も増えています。

怒りのコントロールを題材にした『怒らない技術』(フォレスト出版:嶋津良智著)は累計68万部を超える大ヒット。最近では『アンガーマネジメント 怒らない伝え方』(かんき出版:戸田久実著)などもヒットしており、怒ってしまう人たちの多さを浮き彫りにしています。企業でも怒りのコントロールに起因する問題は重要視されているようで、アンガーマネジメント研修は官公庁はじめ多くの企業で導入されています。筆者は、怒ってしまう人が増えているというのも、叱りが減っている要因の一つだと考えます。


怒ってしまう人が増え「叱り」はさらに激減


「叱る」と「怒る」は違います。

いたらない部分を注意するなど、相手の成長や改善のために厳しいことを言うのが叱る行為。それに対し、イライラの感情をぶつけることが主体になってしまっているのが怒る行為です。

指導しなければならない場面で叱らない人が増えている昨今。その一方で、指導すべき場面で怒ってしまう人もいます。叱られて成長する機会は、ダブルで減っているのではないでしょうか。

かくいう筆者は、叱って育てられた世代です。しかし管理職となった今は「叱らない派」。傷つきやすい世代への配慮という顔をしておりますが、「濃い人間関係を築くのがめんどう」という気持ちがあるのも否めません。「わからないなら、いいや」と、注意することもなく心の扉を閉めてしまう。こういった人間関係の希薄化も、叱りの減った要因の一つでしょう。


希少なものには価値がある


人は希少なものに価値を見出します。

例えば、高額であるにもかかわらず売れ続けるエルメスのバーキンは、なかなか手に入らないことで有名。「出会えること自体がご縁」という免罪符のもと、好みでないカラーでさえ購入されることで知られています。

希少性が見出されるのは高価なものだけではありません。

異物混入で製造が一時中止されていたぺヤングは、廉価な商品にもかかわらず希少価値がついた事例として記憶に新しいところです。購入のための行列やぺヤングを食べるイベント、それを報道するメディア。再販開始に伴った騒動は、希少性に踊らされるという特性をよくあらわしています。

そもそもぺヤングって、そんなに人気だっけ? と思ったのは筆者だけではないと思います。そう考えると「叱り」も同じで、減ったことによって、それを求める人があらわれたとしても不思議ではないのですが……。本当に叱られサービスにお金を払う人はいるのでしょうか?


エンターテイメント性、自己実現への期待、そして癒し効果も!?


「叱られるのも叱るのもイヤ!」という筆者が、想像力を駆使し、ひねり出した、叱られサービスで得られる3つのベネフィットは以下のとおり。


1. エンターテイメント性

わざわざお金を払って怖さを体験する「お化け屋敷」「ジェットコースター」などのアトラクションを思い浮かべるとわかりやすいでしょうか。なかなかできない体験を、お金を払って楽しむ。エンターテイメント性を目的にしている人もいることでしょう。

ちなみに銀座のクラブでは、上から目線で話をするホステスが一部のお客様に人気です(筆者は銀座のクラブに勤務していた経験があります)。高いお金を払って、あんな口の利き方をされるのはどうか……と思いましたが、普段叱られないお立場の人にとって「叱られ体験」は珍しいようで、とても楽しそうにされていたのが印象に残っています。

2. 自己実現

叱られたいという思う心理の裏側には、「もっと成長するかもしれない」「変わるためのきっかけになるかもしれない」といった期待感があります。

英語が話せるようになった自分、それによるベネフィットを想像して、留学や英会話教室などに高額な投資をするケース。高級車を所有している自分、それによる優越感などを想像し、外車を購入するケース。これらをイメージするとわかりやすいですね。

物や体験そのものだけでなく、それによる自己実現への期待。これは人にお財布を開かせる有効な手段です。結果はどうであれ、期待感を抱く時間は楽しいものです。

3. 癒し効果

どこか自分がイケてないことにも気づいている。仕事でもミスはある。でも職場では叱られない。そんな人に「なんだか悪いな」という気持ちが少しずつ溜まっていっても不思議ではありません。

人は負債感を抱えると、それを解消する行動をとろうとします。

解消法としては、仕事で成果を出す、努力をするといったものが一般的ですが、疑似的に叱られるのもその一つ。叱られサービスを利用した場合、努力も少なく済みますし、人間関係の悪化を心配することもなく、心が軽くなるといったメリットが考えられます。誤解を恐れずに言えば、叱りには負債感を解消する、癒しに近い効果があるのではないでしょうか。

と、いろいろ述べてみましたが、どうも今一つ納得できないですよね? 「お金を払ってまで叱られたいなんて、おかしな人だ」と思っていた筆者ですが、この記事を書いている途中に、実は自分も叱られサービスを利用していたことに気づいてしまいました。


あなたも隠れた「叱られサービス」を利用している?


私は会社の社長ですが、わざわざ口うるさく注意をしてくれる顧問をボードメンバーに加え、ご指導ご鞭撻をいただいています。スポーツジムではドSのパーソナルトレーナーさんに鍛えてもらっていますし、ゴルフのコーチはかなりの毒舌ですが、他のコーチにしたいとは思いません。

これらも言ってみれば「叱られサービス」。広義で考えると「叱られたい欲求」は「支えられたい欲求」のバリエーションなのかも知れません。

そう考えると「喝を入れられたい」というのは一時のブームではなく、昔も今もあった欲求であり、これからもなくならいもの。自分に付加価値をつけたいのであれば、成長を促す、適切な叱りができる人材を目指すのも一つのアイディアではないでしょうか。



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