将棋/将棋関連コラム

竜王・糸谷哲郎がオセロ世界王者・伊藤純哉氏に挑んだ(3ページ目)

竜王・糸谷哲郎がオセロ世界王者・伊藤純哉氏に挑んだ。TBSの番組『天下一文道会』での企画である。棋士の読みの深さ、正確さをもって、無敵のオセロキングに挑むというのだ。その背景と経過、結果、そして今後の展望ををガイドする。

有田 英樹

執筆者:有田 英樹

将棋ガイド


竜王、序盤で驚愕の一手

トッププレイヤーの手

トッププレイヤーの手

深々と頭を下げる両者。誇りをかけて、この一戦に臨んでいることが伺える印象的なシーンだ。糸谷の先手・黒石。受ける伊藤氏、後手・白石。序盤、淡々と進んで竜王の5手目、解説の中島氏から、こんな言葉が飛び出した。

 


「竜王は序盤の定石の知識がないはずです。それなのに、この手はトッププレーヤーの手です。(中島氏)」
トッププレイヤーの手と言わしめたのが画像の赤印の黒石だ。オセロに疎いガイドには解説のしようがないが、トッププレイヤーの手とは、さすが竜王である。さらに、特筆すべきは中島氏の解説の公平さであろう。敵であるはずの竜王の手を絶賛したのだ。さすがに元日本チャンピオン。このフェアプレイ精神には脱帽である。

竜王、会心の一撃

One of Best

One of Best


さらに、こんな局面が現れた。竜王3枚、オセロキング6枚という、枚数だけを見れば、竜王ピンチの局面である。そこで放ったのが、赤枠の黒石。ここで、またしても、解説の中島氏が「おっ!」と声を上げた。

 
「これは素晴らしいですよ。これはワン・オブ・ベストなムーブであると長年の研究でわかっている手です。(中島氏)」
たくさんのプレイヤーをもってしても長年の研究が必要だったムーブ。それを、今、竜王がオセロキング相手に繰り出した。打ちも打ったり、打たせたりの両者の駆け引き。そして、素直にその驚きを視聴者に届けてくれる解説者。頂点の風景を知る三者が創り出す世界がここにある。さらに中島氏は、驚きから派生した感動を語る。
「こういうのが簡単にできちゃうって……、棋士ってすごいです。(中島)」

竜王、盤上制圧か


竜王、制圧か

竜王、制圧か

対戦を見守るスタジオにも感嘆の声が上がる。竜王の中盤10分の長考(将棋なら1時間にもあたるのだろうか)をはさみ、終盤に入っていく。この局面をご覧いただきたい。ほとんど黒一色。竜王、盤面制圧といった感じである。だが、ここで竜王が苦しい顔を見せる。ため息が漏れる。そして……。

 

出た!伊藤ダンス!

ここで、オセロキングの指がテーブル上をリズミカルに動き始めた。まるで、オーケストラを操る指揮者、あるいは、獲物に襲いかかるタランチュラのごとき動きだ。中島氏によると「伊藤ダンス」と呼ばれるもので、数十手先を読んだ勝利へのカウントダウンの動きなのだそうだ。ということは、素人目には竜王圧勝と見える盤面も伊藤氏にとっては反撃ののろしを上げる、いや、むしろシナリオ通りの必勝局面となっているのだろうか。竜王のため息は、それを雄弁に物語っている。時をおかずして、猛攻が始まった。

讃え合う王者達

それからは、オセロキングの独壇場であった。竜王の指し手をなくし、パスをさせる伊藤氏。落胆を隠さぬ竜王。最後はオセロキングの圧勝であった。
終了後、竜王は語る。
「負けたのは悔しいですけど、オセロキングの実力が見えた思いです。(糸谷)」

そして、オセロキングも返す。
「序盤・中盤・・・中盤の途中まで互角の凄く緊張した試合でした。(伊藤氏)」
スタジオに鳴りやまぬ拍手。進行役の東野幸治が敗者である竜王に礼を言う。
「プライドも立場もある中、来ていただいてありがとうございます。(東野)」

日頃、毒の多い言を売りにする東野の気遣いに、その本質を見た気がした。そして、この言はそっくりそのままオセロキング・伊藤氏に送るものでもあろう。

そして、これからの展望

当たり前のことだが、伊藤氏は強い。恐るべき大局観、思考力の持ち主である。そして、ふてぶてしさと裏腹に謙虚さと礼節を感じさせる魅力をも持ち合わせている。東野はコーナーの最後に「次の機会があれば羽生さん(羽生善治/過去記事)に出てほしい」と加えた。それも、興味深い顔合わせではある。しかし、私はむしろ逆を見てみたい。つまり、オセロキング伊藤氏に、将棋に挑戦してほしいのだ。糸谷と伊藤氏の詰め将棋対決など見逃せない戦いが繰り広げられるのではないか。もちろん、解説は豊川しかいない。だじゃれ王・豊川は何と語るのか楽しみである。あっ、一つ考えついた。
「この手は痛う(いとう)ございます。最高の手順(じゅん)やおまへんか。(ガイド)」
……。心配ご無用である。豊川は、私などよりはるかに素敵な「だじゃれバズーカー」を装備している。

伊藤の将棋フィールドへの進出。考えるだけでもワクワクしてくる。将棋盤を前にしても、きっと、出てくるはずだ、あの伊藤ダンスが。ガイドには、そんな気がしてならない。

最後に、この素晴らしい戦いを見せてくれた主役二人と解説の中島氏、先鞭をつけてくれた棋界の音二郎、また出演者、関係者の皆さん、そして、最後まで読んでくださった貴方に感謝します。ありがとうございました。


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追記

「敬称に関して」

文中における個人名の敬称について、ガイドは下記のように考えています。
(1)プロ棋士の方の活動は公的であると考え、敬称を略させていただきます。ただし、ガイドが棋士としての行為外の活動だと考えた場合には敬称をつけさせていただきます。
(2)アマ棋士の方には敬称をつけさせていただきます。
(3)その他の方々も職業的公人であると考えた場合は敬称を略させていただきます。

「文中の記述、画像に関して」
(1)文中の記述は、すべて記事公開時を現時点としています。
(2)オセロの局面は、ガイド所有の盤で再現したものです。

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