将棋/将棋関連コラム

竜王・糸谷哲郎がオセロ世界王者・伊藤純哉氏に挑んだ(2ページ目)

竜王・糸谷哲郎がオセロ世界王者・伊藤純哉氏に挑んだ。TBSの番組『天下一文道会』での企画である。棋士の読みの深さ、正確さをもって、無敵のオセロキングに挑むというのだ。その背景と経過、結果、そして今後の展望ををガイドする。

有田 英樹

執筆者:有田 英樹

将棋ガイド


そして竜王登場

真剣勝負という玉

真剣勝負という玉

いよいよ竜王登場の時がやってきた。重厚な扉が開く。張り詰める会場。私は息をのむ。そこに糸谷の姿が……。はたせるかな、竜王は公式タイトル戦を思わせるような羽織袴で現れてくれた。手には扇子。これでこそ竜王である。私は画面に拍手を送った。竜の爪が真剣勝負という玉を握りしめたのだ。しかし、服装一つでここまで注目させられるとは、さすがにTBSだ。ラフと正装、二人のコントラストが画面に映える。次いで糸谷の言葉が紹介される。

「最強の方なので胸を借りて教えていただいて……。まあ、あわよくばという事ですね。(糸谷)」
リスペクトを持ちながらも、あくまで勝利の追求を語る竜王。

ハンディ決定にかいまみえる闘志

対戦前にハンディを決めなければならない。芸能人二人に対する、あり得ないほどのハンディはオセロキングが決めたものだ。今回も同様に「ハンディはどうしますか」と、まずはオセロキングに尋ねるアナウンサー。やや緊張の色も見え隠れする伊藤氏から、ものすごい発言が飛び出した。

「将棋の竜王とのことなので、平手で……。(伊藤氏)」

世界のオセロキングが、竜王とはいえ門外漢の挑戦者に「平手」つまり「ノーハンディ」を提示したのだ。これは、伊藤氏有利にみえて、非常に危ない条件とも言えよう。すでに述べた敗北の重さを無限大にまで引き上げることに他ならないからだ。もし、ハンディをつけていれば、その重さは半減したはずだ。いや、敗北だけではない。平手では、勝利の価値をも下げてしまいかねない。それを承知の上で、あえて平手とした、その勇気。そして、竜王へのリスペクトをノーハンディで盤上表現する姿勢。さすがに世界の頂点を極めた勝負師だ。

一方の竜王はこう答える。

「僭越ながら、ノーハンディで打たせていただくのは光栄。(糸谷)」

竜王の正装、オセロキングの平手宣言、お互いの敬意と自尊心が交錯する。だからこそ二人の闘志が観ている者の胸に静かに深く響いてくる。まだ対局は始まっていないのに、である。

ところで、実は、この対戦には布石があった……。それを紹介しておかねばなるまい。

豊川という布石

豊川孝弘

豊川孝弘

布石……、それは、あの豊川孝弘である。なお、豊川については過去記事『マツコ・有吉絶賛の「豊川孝弘」-棋界の音二郎』を参考にしていただきたい。

豊川は2014年11月5日に放送された『魂の文化系TV(TBS)』において、すでに伊藤氏とオセロ対戦をしていたのである。負けはしたものの、豊川が望んだ平手で善戦。プロ棋士の読みの凄さを見せてくれた。この事績あっての竜王登場であり、オセロキングからの平手宣言であったのだ。さすがに棋界の音二郎・豊川、棋士のフィールドを拡大する傑物である。

解説は元オセロ日本チャンピオン

解説は元オセロ日本チャンピオンの中島哲也氏だ。番組で設定された糸谷の立ち位置はオセロキングを倒すための最強の刺客である。ならば、中島氏にとって、竜王は敵だ。しかも、前述のように、豊川によってオセロにおけるプロ棋士の適応力は実証されている。もちろん、オセロキングの強さは百も承知。日本チャンピオンだからこそ世界チャンピオンの強さを知り抜いている。だが、何と言っても相手は竜王なのである。読みの深さ、正確さは計り知れない。オセロ側からすれば、絶対に負けられない一戦。いったい、どんな解説になるのか。勝敗の行方のみならず、ここにも注目せざるを得なくなった。
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