ネパール大地震
2015年4月25日、5月12日の大きな地震に見舞われたネパール中部。カトマンズ盆地内、各市のダルバールスクエアの寺院や建造物の一部に壊滅的な被害が出たほか、ランタン国立公園、エベレスト街道のトレッキングルート上にも甚大な被害を及ぼしました。カトマンズ盆地の世界遺産
地震後、一瞬のうちに瓦礫で埋め尽くされたカトマンズ、パタン、バクタプル3市のダルバールスクエアとスワヤンブナート、チャングナラヤン寺院は、人命救助、瓦礫撤去のため立ち入り禁止の措置がとられていましたが、6月15日より一部危険区域を除いて一般に再公開されています。残された建造物の多くには、倒壊防止のためのつっかえ棒などの応急処置が施されたり、修復のための足場が組まれており再建作業が続けられています。どの市のダルバールスクエアにも外観にあまり影響が見られず、これまで通りの姿を残しているものが多くある反面、残念ながら完全倒壊で姿を消してしまったものも。骨董市が開かれていたバサンタプール広場は避難民のテント村になっています。
小高い丘の上にあるスワヤンブナート。
東側の麓にある急階段下のゲートは倒壊しており、こちらからの入場はできません。西側の緩やかな階段から周り込んで、仏塔を時計回りに拝観するレーンが作られています。仏塔の外観自体にはダメージは見られませんが、周辺の僧院が半壊、正面にある一対のシカラ様式の塔の片方が崩壊するなど、地震の揺れの凄まじさが伝わってきます。重機の進入ができないため、現在も手作業で瓦礫の撤去が行われています。
ボウダナート、パシュパティナートは大きな被害がなかったため、一部で修復の作業中ながら地震後から変わらず一般の観光が可能です。ボウダナート仏塔の修復中は五色の祈祷旗が取り外されており、台座に上がることはできなくなっています。
カトマンズ市内、郊外の様子
カトマンズ市内は徐々に平常を取り戻し、ツーリストハブのタメル地区のホテル、レストラン、土産物店も建物の安全診断が進められ、営業を開始していますが、現在モンスーンのオフシーズンに入ったこともあり人影はまばらです。バクタプールは古いレンガ造りの建物が密集しており、路地裏にたくさんのつっかえ棒が立てられています。亀裂が入るなどして安全性が確認できていないホテル、ゲストハウスは休業中となっており、テントでの生活を余儀なくされている住民が大勢います。
ナガルコットのホテルは安全診断、修復作業が進められ、すでに営業を開始しているホテルも多くあります。ヒマラヤ山脈の展望台へのアクセスもこれまでどおり安全です。ナガルコットからのミニトレッキングのルートが人気のネパール最古のチャングナラヤン寺院については、表参道は通行可能になりましたが、6月中旬現在、寺院境内は観光客の立ち入りは禁止となっています。
そのほかの観光地・トレッキングルートへの影響
ネパール第2の街ポカラ、チトワン国立公園とルンビニの世界遺産は、地震の影響こそ受けていませんが、モンスーンシーズンの訪れもありツーリストが激減し、経済的に大きな打撃となっています。ホテル、レストラン、空や湖のアクティビティー、トレッキングの料金を大幅に割引してツーリストの来訪を待ち望んでいます。外国人にも人気のアンナプルナエリアのトレッキングは、一部地域を除けば現在も可能です。人気のトレッキングキングルートカトマンズの北に位置する「世界で最も美しい渓谷」とも言われ、チベット文化を色濃く残し、高山植物の宝庫だったランタン国立公園方面は、大規模な地滑りが起こり、数多くの犠牲者を出した地域です。カトマンズからトレッキング開始地点のシャブルベシまでのハイウエイは開通しましたが、トレッキング自体は催行不可能になってしまいました。
エベレスト街道の入り口となるルクラの村には大きな被害が及んでいませんが、ベースキャンプ方面に続く村々のロッジが全半壊の被害を受けており、道中も多くの箇所で落石、土砂崩れの影響が残っています。これまでのような快適なトレッキングを楽しめる状態とは言い切れません。
ネパール国内いずれの地域もこのモンスーンシーズンは特に土砂災害、水害への厳重な警戒が必要です。移動の際は目的地までの行程の状況、天気予報の確認も忘れずに!
当地の人々はまだこれまでの日常生活とはほど遠い暮らしを強いられており、特に遠隔地はさらなる支援を必要としています。カトマンズ盆地の観光地も地震の爪あとが残ったままでの公開ですが、これからの復興を応援し、再建を見届けてもらえるよう、モンスーン明けの秋、年末年始のベストシーズンには賑わいが戻ってくることを願って、政府、観光省、ツーリズム業界全体で努力を続けているところです。(2015年6月の執筆時点)
2016年時点でのネパールの復興状況
2016年2月現在のネパール情勢を追記します。2015年9月の新憲法制定後から、その内容に不満を持つ民族団体などによりインド国境が封鎖され、ネパール全土で極度の燃料・生活物資不足に陥りました。これにより、インフレと闇市場が暗躍し、経済情勢や市民生活も大混乱となり、現在も震災復興活動に影響を及ぼしています。旅行者への大きな影響としては、航空燃料を空輸でまかなうようになったことに伴い、国内線の燃油サーチャージが大幅に値上げされたことが挙げられます。このほかトリブバン国際空港にて国際線の機体への給油を停止したため、定期便を運休する航空会社や給油のためインドやバングラディシュの空港を一旦経由して目的地へ向かう航空便で遅延やロストバゲージが多発しています。
またガソリンやガスが需要を満たせず、タクシーも交渉で通常の2~3倍の料金になったり、満員のバスの屋根に乗車する大勢の人々が見られました。レストランや食堂ではメニューを限定、値上げして営業しているところが増えています。ホテルでは長時間の停電のため、エアコンが使えない、シャワーのお湯が不十分などの不便が少なからずあるようです。
こういった状況ではありますが、カトマンズ市民やネパール国民が楽しみにしているお祭りや各民族の新年祝賀も行われており、エベレスト街道のトレッキングのルートやロッジも修復されています。外国人観光客やトレッカーを迎える体制は整っており、2016年、ネパール政府が中国籍の旅行者に対してビザ代無料を提示したこともあり、観光客の姿が戻り始めてきています。特にトレッキングやラフティング、パラグライダー、ジャングルサファリなどのアドベンチャー旅行を目的とする人たちにとっては、以上の要因はそれほどマイナス影響にはなっていないとも言えるでしょう。