ウンゲラーの手にかかれば蛇さえ人気者!『へびのクリクター』
さて、この作品でウンゲラーがプロデュースした(?)のは、ボア・コンストリクターという種類の毒のない蛇でした。いくらウンゲラーでも、蛇を主人公にした絵本を作るなんて随分思い切ったことを……と思いませんか? なにしろ「蛇は見るのもイヤ」という読者が多いのですから。ところが、そこは名手ウンゲラー! 蛇の登場からわずか3ページで、読者は蛇を嫌っていたことさえ忘れてしまいそうです。息子から誕生日のお祝いにと贈られた蛇にクリクターという名前をつけ、大切に世話をするボド夫人。その様子は子育てそのものです。たとえば、哺乳瓶でミルクを飲むクリクターや、冬は寒いからととびきり長いセーターを編むボド夫人。温かな愛情で結ばれる2人を見ていると、読者もついうっかり蛇を飼いたくなってしまうかも!
賢く親切なクリクターは、文字を覚え、子どもたちの遊び相手になったりお手伝いをしたり、すっかり町の人気者になりました。でも、それだけではありません。正義感が強くて勇気のあるクリクターは、武勇伝として語り継がれるような活躍を見せてくれるのです。
それにしても、緑と赤と黒、3色だけで描かれた絵の美しいこと! 洗練という言葉がピッタリの絵ですね。『すてきな三にんぐみ』や『ゼラルダと人喰い鬼』の鮮やかではっきりとした色使いと比べると、別人が描いているようです。
ひょっとすると、この作品でウンゲラーがプロデュースしているのは、彼自身かもしれません。ウンゲラーは、その多様な作風から「いくつもの顔を持つ作家」といわれているのですが、それも彼の高いセルフ・プロデュース力によるものに違いありません。
【書籍データ】
書籍名:へびのクリクター
作:トミー・ウンゲラー 訳:中野完二
価格:1080円
出版社:文化出版局
推奨年齢:4歳くらいから
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>>次も、地域によっては嫌われ者の8本足のあの生き物が活躍するお話です!