何かに怒りを覚えた時は、その対処能力を試される時と言えるかもしれません。日頃の成果(?)をしっかり出せるでしょうか?
今回は、怒りの感情に対処するために知っておきたい精神医学的な基礎知識を詳しく解説します。
自分自身の「怒り」に戸惑うことはありませんか?
仮にですが、通りで通りすがりの誰かが自分に少しぶつかってきた状況を考えてみます。ある人はムッとするぐらいで済むでしょう。でも、ある人は思わず相手を罵ってしまうかもしれません。こうした反応はその人の個性と見なせる面もありますが、この状況ではこの程度の反応まではOKといった、周囲環境の中で暗黙の了解となっている大まかな目安があります。
何かに怒りを覚えたとき、その反応は目安内でしたか? 他人が自分と同じ反応を示したら、眉をひそめるような事がなかったか、冷静になった今考えてみてください。もし自分でも戸惑うような反応があった場合、その背景に何があるかを、はっきりさせてみましょう。
怒りが増幅する背景にあるもの
怒りが増幅しやすい背景には、怒りを生み出すフラストレーション自体を覚えやすくなっていることが挙げられます。毎日の生活で何らかの不満がある、自分に自信が持てない、場合によっては、他人から軽く見られているのではないかと、被害的な意識が高くなってしまうこともあります。また、パーソナリティ的な素地として感情のコントロールが元々苦手、あるいは感情に少し不安定な傾向があるといった可能性もありますが、こうした傾向は、家庭内で何らかの問題が起きているといった日常のストレスが拍車を掛けやすいことに要注意です。
「アルコールが入っていた」など、怒りが生じた時の気持ちのコントロールに問題がある可能性も考えられます。人によっては、自分の置かれている状況がその傾向を助長させる可能性もあるでしょう。立場上、部下に対して強面に見せる必要がある……といった場合もあるかもしれません。
怒りを覚えやすくなっている人は、まず怒りの表出を肯定するような心理傾向がないかといった事もどうか注意してみてください。
怒りのコントロールとは、上手に怒れること
もし怒りを抑えられず、相手を激しく罵ってしまうなど、その場で許容されないレベルで反応しやすくなっている場合、それがエスカレートしていく可能性には充分注意しておきましょう。早めに対処を考慮したいところですが、その際の怒りのコントロールとは、決して歯を食いしばって押さえつけるといったように抑圧すべきではありません。
怒りを抑圧することは、実は心身の健康にあまり良くありません。実際、怒りが生じやすい状況が人為的に作られた際、黙ってその気持ちを我慢していた人は、心拍数や血圧の上昇が大きかった……といった研究報告もあります。心拍数や血圧が急上昇する事は心血管系に負荷をかけ過ぎる可能性があり、健康上できるだけ避けたいところです。
怒りのコントロールとは怒りを抑圧する事ではなく、その表出をその場の許容範囲におさめていくことです。その場では相手を罵るのが絶対にNGならば、数回深呼吸して、その場を離れた方が良い場合もあるでしょう。また、話し合いの余地があれば、まず気持ちを落ち着かせてから、怒りの気持ちを相手に伝える……といったように、その場に適した、いわば「上手な怒り方」を取りたいものです。
なお、怒りにはポジティブな面もあります。辛い状況に絶望して無気力になるよりは、怒りの気持ちが生じる方がより前向きな心的反応と言えます。問題はその大きなエネルギーをネガティブな方向にではなく、いかに前向きな方向へ向かわせるか、怒りの気持ちが生じやすい人は、何かを達成するために必要なエネルギーは充分持ち合わせているかもしれません。
また、怒りを絶えず覚えるようになっている場合、その原因が医学的な問題や心の病気である可能性もあります。例えば、高齢の方が、人が変わったように怒りっぽくなった場合、場合によっては認知症の初期症状の可能性もあるでしょう。また、感情の不安定さや気分の変調などが顕著な場合、心の病気の可能性も考慮したいところです。
ただ一般的には、怒りっぽいだけでは、個性の範疇で収まることですが、やはりトラブルの原因にはなりやすいです。怒りっぽい人は上手に怒れているか、どうかご注意してください。