笑いを真剣に考えると必ず突き当たる
前々回から又吉直樹「火花」で扱われている笑いについて、かなりしつこく考えてきました。その中で、どうしても考えてしまうのが、空前絶後(と言い切ってしまいましょう)のコンビ・ダウンタウンの存在でした。小説の主人公の1人、神野が目指した「世間を振り向かせる笑い」の創造を、現実社会でやってのけた数少ない存在がダウンタウンでした。「様々な先輩芸人の特徴を取り入れた」と作者が語る神野のキャラクター造形には、松本人志もいくらか含まれているように感じました。
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ダウンタウンがお笑いの世界に伝説を築いたのは、誰もが知るところであり、自身が記した書籍や、特集を組んだ雑誌、人物論や作品評をまとめた便乗本など、90年代から世紀をまたいで出版ラッシュが巻き起こりました。しかし十数年経った現在、依然としてテレビで活躍する2人について、言及されることがめっきり減りました。そんな今だからこそ、あえてじっくり深堀りしてみたいと思います。
先輩達がやらなかった事
今年4月にスタートした「ダウンタウンなう」をはじめ、コンビでの冠番組が週4本、松本、浜田単独での番組も多数。結成から30年以上経過しても、その勢いは一向に衰えを見せません。しかし、当然のことながら番組の内容については、時の流れとともに様変わりしてきました。もっとも顕著なのは、25年目を迎える「ガキの使いやあらへんで!!」に見る「時の流れ」でしょう。スタート当初は松本、浜田の掛け合いトークがメインで、大喜利なども頻繁に登場していましたが、最近はもっぱらリアクション重視のゲーム企画が中心になったのでは。
とはいえ、それも無理のない話で、笑いを生み出す体力は年々弱まっていくのが通常。本来、20年以上も第一線でいるだけで驚異的なのですが、なぜかあの「お笑いビッグ3」以降、世代交代がピタッと止まってしまったのはご存知のとおりですが。ダウンタウン、ウッチャンナンチャン、とんねるずの世代および、それ以降にブレイクした芸人の大部分も、現在まで活躍を続けています。この分厚い壁を突破しなければならない若手芸人にとっては、たまったものじゃありません(笑)。