運動と健康

人が「伸びる動作」を本能的に行うのはなぜ?

朝起きた時、少しリフレッシュしたい時に行う動作といえば「伸び」ですね。これは誰かに教わるわけでもなく、子供の頃から本能として行っています。なぜ伸びる動作をするのでしょうか?今回はこの「伸び」について体の面からの考察を試みます。

中村 尚人

執筆者:中村 尚人

理学療法士 / 運動療法ガイド

ヒトはなぜ立ったのか

ヒトの身体的特徴としてまず挙げられるのは、直立姿勢であることです。類人猿(チンパンジーやゴリラ)と比べても圧倒的に垂直位です。猿や類人猿も二足で歩くことはありますが、直立でいることは調教された猿以外はほとんどありません。

ではなぜヒトは直立になったのでしょうか?様々な説がありますが、ヒトと同じく直立を取る動物と比較すると見えてくることがあります。

ミーアキャット

ミーアキャット

集団で立ち上がり、キョロキョロ様子を伺うのが可愛らしいミーアキャット

ミーアキャットは可愛らしい仕草と、集団で立っている姿がなんとも可愛らしくみんなに人気なマングースの仲間です。彼らはなぜ立っているのでしょうか?

二つ理由があります。まずは日光浴。立つことでより広い体表面積に日光を浴びることで体を温めます。そして最も重要な理由は見張りです。ミーアキャットの天敵は鷹やフクロウなどの猛禽類。30匹ほどのコロニーでは必ず見張り役がいて、危険を察知すると鳴き声で仲間に伝えます。つまり、立つことでできるだけ遠くを見回して危険がないか見ていたのです。

レッサーパンダ

レッサーパンダ

日本でも世間を騒がせた立ち上がる動物、レッサーパンダ

実はジャイアントパンダよりも先にパンダという名前がついたのがレッサーパンダ。ジャイアントに対して小さいからレッサー(lesser)……。少しかわいそうですね。海外では「red panda」とも呼ばれているそうです。

さて、レッサーパンダも直立になります。なぜでしょうか?パンダは竹の葉を食べます。竹は下の葉よりも上の方が柔らかくて美味しいそうです。そのより美味しい部分を食べるために立っているのです。危険察知のためではなく美食(?)というところが可愛らしいですね。

エリマキトカゲ

哺乳類に限らず爬虫類であるエリマキトカゲも二足で立ちます。更にエリマキトカゲは立つだけでなく二足で走ります。餌であるバッタなどの昆虫を草原の中で見つけやすくするためだと言われています。一般的なトカゲは地面を這うような姿勢ですから、草の丈が高いと前が見えなくなってしまうのです。

そのため多くの一般的なトカゲはエリマキトカゲとは異なり、岩場を住処としています。エリマキトカゲは立つということで、草原という場に適応したのでしょう。

草原で立ち上がり、「遠くを見る」ことが必要だった?

さてここまで直立する3つの動物を見てきました。ここでそれぞれの共通点と相違点について考えてみたいと思います。

共通することは、「遠くを見る」ということ。危険察知にしろ餌の探索にしろ、動作としては体を起こして、伸ばして何かを探したり高いものを見上げたりしています。

相違点は、それぞれの生息地です。レッサーパンダの生息地は中国、ネパールの標高の高い竹林や森林です。エリマキトカゲはオーストラリアの森林と草原。そしてミーアキャットは南アフリカのサバンナです。

さてヒトの発祥地はどこでしょう?最近は遺伝子解析も普通になりほぼ確定されています。それはアフリカです。ということは生息地としてはミーアキャットが一番近いということになります。進化は遺伝子的な突然変異もさることながら、環境への適応という側面を持っています。つまりミーアキャットと同じ環境いたヒトもまた、その環境に適応して進化したと考えられます。

重要な点はミーアキャットもヒトも食物連鎖の中では中間に位置し、捕食者でありながらも被食者でもあるということです。ともに生物的には小さく、非力な弱い存在です。生存するために一番重要なのは、被食されないということです。つまり、天敵である猛禽類や大型肉食動物からの危険を早めに察知することです。

ミーアキャットのこの危険を察知するための直立姿勢から、同じくヒトの直立化の意味も推測できます。それは、ヒトも「危険を察知するために遠くを見て体を伸ばしていた」のではないかということです。子供の成長の中でもそれを確認することができます。台所でお母さんの料理をしているところを背伸びして見ようとしている姿を想像してみて下さい。

おそらく類人猿のように足が曲がって、背中が丸かった我々の祖先も、遠くを見ようとして体を起こしてきたのではないでしょうか。

以上見てきたように、ヒトはサバンナという環境に適応して進化したと考えられます。つまり私たちの体は、「直立」するために作られたのです。ですから、体が丸くなったり縮こまったりすると、本能的に本来の健康的な状態、つまり直立に戻そうとするのではないでしょうか。それが「伸び」という行為なのです。

体は伸びて調整できる

伸びの図

伸びる動作を行うと、なせりラックスできるのでしょうか?

多くの身体の不調は「伸びの不足」からきています。体が伸びなくなると重力のストレス(圧縮力)に負けて、様々な関節に歪みが出てきてしまいます。「伸びる」という単純な運動が、実は私たちヒトにとってはとっても大切な調整法だったのです。

■生活の中で健康的な体を維持するポイント
  • 遠くを見る時間を作る
  • できるだけ伸びをする
  • 縮こまる機会を減らす
  • 空や雲、星を見る

■伸びの方法

  • 左右の手の指を組み、手のひらを返して肘を伸ばす
  • 息を吸いながら手のひらを天井に向け伸びる
  • 余裕があれば視線も少し上げる

伸びの時にもうワンポイント動きを付け加えると更に身体が整います。それは、伸びた状態から骨盤を少し横に移動させて弓なりになるようにする動きです。こうすることで足から手先までがさらに伸びます。バナナになった気持ちで伸び伸びして下さい。

休憩時間は伸び時間。朝会も伸び。会議の前にも伸び。また日頃から空の雲や宇宙の星に思いを馳せ、深呼吸して気持ち良く体を整えて下さい。

伸び伸びとした体と心を、この簡単な「伸び」運動で作ってみて下さい。

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