勤務の対価は給与控除前の額面
手取りだけでなく、額面や天引き額もチェックしましょう
しかし、ここで分かっておいてほしいのは、働くみなさんの労働の対価は、あくまで給与控除前の額面ということです。その金額からいろいろと天引きされて、最終的に口座に振り込まれることになります。
給与天引きには、任意と強制の2種類
給与天引きには、大きく分けると3種類、さらにその中で2種類に分けることができます。一つは、財形貯蓄や社内預金のように、社員の希望により給与天引きするもののです。もう一つは、社内旅行積立金や労働組合費など、社内の制度のもと給与天引きが行われるものです。この2つを会社制度タイプと呼びます。
そして最後の一つが、法律で天引きが強制されているものです。こちらには、大きく分けて、健康保険、厚生年金保険、雇用保険、所得税、住民税の5種類があります。こちらを法定タイプと呼びましょう。
この区分の違いは何でしょうか。もちろん任意か強制かといった違いはあります。しかし、控除の性格から分けるとすると、誰のための控除かといった観点で分けることができます。
会社制度タイプの控除は、財形貯蓄にせよ、社内預金にせよもちろん自分もしくは家族のためです。(たまに社内旅行積立金を天引きしておきながら社内旅行を行わない会社もありますが、それはまた別の話です。)
法定の控除はみんなのために
一方、法定タイプは社会全体のための控除です。税金と社会保険料の天引きがありますが、特に若手にとっては社会保険料の天引き額が多いのではないでしょうか。「自分は医者に行かないから健康保険には入らない。」とおっしゃる方もたまにいるのですが、そもそも健康保険料は自分のために払っているのではありません。自分が納めた保険料は、主に同じ時代を生きる人の医療費に充てるために払っているのです。厚生年金保険も同じで、今納付している額が、将来年金の形で運用益が加わって支払われるわけではありません。今給与天引きされている額は、主に同時代の年金を賄うために支払われています。もちろん、保険料の支払額は将来の年金額に反映されるのですが、生命保険会社などが取り扱う個人年金ほど、支払った保険料との連動もなく、将来的に目減りする可能性は高いといえます。
どうして会社が給与天引きできるの?
厚生年金保険料や健康保険料は、自分の意思にかかわらず強制的に天引きされます。このことは、法律でしっかりと定められています。自分で納付するとなると、国民年金と同様に納付率は低くなり、健康保険にしても「自分は病気にならないから納めない。」といった理屈で納めない人も多数出てきそうです。さらに、これら社会保険関係の保険料は半分を会社が負担するということになっていますので、給与天引きでまとめて従業員分と会社負担分を納付してくれた方が、国の事務負担も減ります。
さらに、給与天引きにすることで社会保険料納付に対する抵抗感をなくす狙いもあるのかもしれません。銀行の窓口で2万円の保険料を支払うのは抵抗があっても、2万円が給与天引きされていれば、同じ負担なのにすんなりと受け入れてしまいます。
給与天引きの中身を理解することが社会人の第一歩
厚生労働省によれば2012年2.4人で1人の高齢者を支えているところ、2050年には、1.2人で1人の高齢者を支える構図となるようです。現状の制度で行けば、月々の社会保険料が2倍になることになります。お給料のほとんどが社会保険料で持っていかれてしまいますね。さすがにこうはならないかもしれませんが、いずれにせよ、今後も社会保険料の増加や給付の抑制は免れない状況です。みなさんが毎日働いて受け取る給料から、いくらの保険料が、どのような制度のために天引きされているのかということをしっかりと理解しておきましょう。選挙に行かない若者も多いようですが、給与天引きの内容を理解すれば、現在の制度に対して声を上げたくなる人も少しは出てくるのではないでしょうか。