ムーミン絵本はムーミン・シリーズのスピンオフ物語
どういうわけか、ムーミン絵本ではムーミンがちゃんと登場するのは2冊だけで、他の2冊は、ムーミン・シリーズのスピンオフ物語という内容が並びます。だからといってがっかりする必要は全くありません。この2冊は、登場人物がとても個性的で、主人公の成長過程の中にトーベ・ヤンソン特有の世界観を垣間見ることができるのです。ムーミンが登場しないムーミン絵本? 『さみしがりやのクニット』
クニットは、大きな目を持つ人に良く似た小さな生き物です。いつも話し声が小さくとても恥ずかしがり屋……そんなクニットが、意外にもトーベ・ヤンソン2冊目の絵本の主人公なのです。ひとりぼっちのクニットは、夜が怖くて寂しくて仕方ありませんでした。その寂しさに耐えきれず、とうとう家を出ることにしました。海にやってきたクニットは、そこで浜辺に流れ着いた手紙を見つけました。それは自分と同じようにひとりぼっちの女の子スクルットの手紙でした。その手紙を読んだクニットは、彼女を慰めに行こうと決意したのです。はたして、恥ずかしがりやのクニットはスクルットに会うことができるのでしょうか……。
ムーミン一家がムーミン谷へ引っ越してくる前日に起きたお話という設定のため、ムーミン一家は全く姿を見せません。でも、スナフキンやミムラねえさんなどお馴染みのメンバーのほか、ヘムレンさんやモランなどが顔を出します。ムーミン谷外伝としてムーミン・ファンの方はもちろん、そうでない方にも楽しんでいただける作品だと思います。(初出は1960年でした。)
【日本語版の書籍DATA】
トーベ・ヤンソン:作 渡部翠:訳
価格:1728円
出版社:講談社
推奨年齢:6歳くらいから
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ムーミン谷へ行った少女の冒険『ムーミン谷へのふしぎな旅』
1977年にトーベ・ヤンソン3冊目の絵本として発表されたのが、『ムーミン谷へのふしぎな旅』でした。とてもうらやましいことに、人間として唯一ムーミン谷へ入ることができた少女スサンナのお話です。
でも、スサンナの旅自体は少しもうらやましくありません。なぜなら怖ろしい「めちゃめちゃ世界」の旅なのですから。それというのも、退屈な毎日に不機嫌になっていたスサンナが、ある言葉で穏やかな日常を「めちゃめちゃ世界」に変えてしまったのです。
スサンヌは、森で拾った不思議なメガネをかけた途端に、魔物が住み火山が爆発する世界に迷い込みます。やがて、ヘムレンさんをはじめ少しずつ増えてゆく仲間たちとともに光にあふれたムーミン谷をめざすことに……。
水彩で描かれた絵は美しいのだけれど、紙面にはまるで怖い夢を見ている時のような不安感が漂います。一行は無事ムーミン谷へとたどり着くのだけれど、読後も心の底から笑えないような不思議な感覚が残ります。日本の絵本ではあまり見られないタイプの作品といえるでしょう。
【日本語版の書籍DATA】
トーベ・ヤンソン:作 渡部翠:訳
価格:1728円
出版社:講談社
推奨年齢:6歳くらいから
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