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現役塾講師が伝えたいアスペルガーと中学受験の勉強(2ページ目)

今回のテーマは少しセンシティブな話題となりますが、アスペルガー症候群と受験勉強のお話です。長年塾講師をやっていて、この部分への世の中の理解がほとんど進んでいないなあと感じる場面が多々ありますので、敢えて踏み込んでお話ししていきたいと思います。

宮本 毅

執筆者:宮本 毅

学習・受験ガイド

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親子の新しい関係を是非模索してみてください


アスペルガーが障害とはならないケースもたくさんある

このような偏見はどうして生じるのでしょう。最近「大人の発達障害」をいうものが話題となっています。職場でのコミュニケーションがうまく取れず、人間関係に悩み、うつ病を発症してしまう人の数は、年々増加しています。こうした人たちは上司や同僚から「空気の読めないヤツ」とか「話の通じないヤツ」というレッテルを貼られる現状があるようです。そうしたレッテルが社会全般に浸透して、現在根強くあるような偏見へとつながっていると考えられます。

アスペルガーは医療分野では「広汎性発達障害のひとつ」とされています。この「障害」という言葉が曲者で、何か能力的に障害があって学習にも影響があるように思われがちですが、アスペルガーの人たちには学習上の障害はないとされています。むしろ長期記憶に関しては普通の人よりも高い能力を示す場合が多いのです。また「自閉症の一種」に分類されるため、ひきこもりやうつ病などと関連付けてとらえられる傾向もありますが、実際のアスペルガーの子ども達の中には、むしろ元気でよくしゃべり、授業中での発言も多い子もいるのです。ただ間の取りかたがうまくないので発言すべきでないところで発言してしまったり、意図せずにお友達を傷つけるようなことを言ってしまったりして、結果的にクラスで孤立しひきこもりなどに発展してしまうケースがあるようです。それとて教師や保護者の理解があれば、子どもの孤立化を防ぎ、空気の読める子に育てていくことができることもある、と私は思います。

私の教室では、アスペルガーと診断された子に対して、「他の人にどんなことを言ってはいけないのか」や「なぜ不規則な発言をしてはいけないのか」「発言したいときにはどんなタイミングでおこなえばよいのか」などを具体的に指導しています。こうしてあげることで、教室内で他のお友達と上手にコミュニケーションを取り、伸び伸びと学習して志望校に合格しています。大切なことは信頼できる大人との出会いであり、その大人による「感情によらない」「具体的な指導」だと思います。

結論として私自身は、もちろん度合いや個人差はあるとは思いますが、多くの場合アスペルガーとはすなわち「個性の一種」であり、決して「障害」や「病気」や「機能不全」ではないと言えるのではないかと考え、信念を持って生徒と接しています。

 

アスペルガーの子どものできることとできないこと

アスペルガーの子どもは、参考文献によると、特に記憶力に関して高い能力を発揮するといわれています。私の教室では、一度聞いたことを忘れずに記憶にとどめていられる子もいます。その生徒は、私が物語を話して聞かせるように授業をしてあげるととてもよく記憶が定着します。その方が長期記憶を比較的保持しやすいようですね。ですからたとえば歴史を学習させるのに、テキストではなく歴史マンガや歴史小説などを活用する方が、アスペルガーの子には向いているといえます。

一方アスペルガーの子どもは、参考文献によると、ワーキングメモリと呼ばれる記憶法は得意ではないようです。ワーキングメモリとは、何か他の行動をしながら記憶をすることを指します。たとえば車の運転をしながら仕事の段取りを考える、とか、料理をしながら明日の予定のチェックをするいったことがそれに当たります。いわゆるマルチタスクのことですが、アスペルガーの人は、これが不得意であるようです。ですのでアスペルガーの子にはリビング学習はあまり向かないかも知れません。静かな学習部屋を与え、いっぺんに課題を与えずに小出しにして、ひとつひとつクリアさせることが学習効果を高めるのにつながります。

またアスペルガーの子どもは、参考文献によると、非言語的メッセージを読み取るのが苦手なようです。たとえばテストの成績表が返却されて、その結果が芳しくないものであるとき、保護者の皆様が落胆の表情を浮かべたとしますね。アスペルガーの子どもはそれを見て反省の色を示さないことがあるようです。そんなときお子さんのその様子を見て、「この子は頑張ろうって気がないのかしら」とか、「お母さんを悲しませないように次のテストでは頑張るぞって思わないのかしら」と感じ、保護者の方がさらに落ち込んでしまうこともあるでしょう。このような場合は、今回の成績がとても残念な結果だったこと、次回は頑張って欲しいこと、そして何をどのように頑張るべきかをきちんと伝えてあげましょう。そうすればもともと純粋で素直な心を持つ子たちですので、期待に応えてくれるようになると思います。


アスペルガーと中学受験

私の長年の経験から、アスペルガーの子どもの場合、こだわりの強さや嗜好性から、算数などにおいて難関中の入試問題に実際に出てくるような超難問が解けるのに、とても基本的な問題で手こずる傾向があります。また人の感情を読み取ったり、行間を読み取るのが苦手なため、国語の物語文で苦労したりします。漢字を覚えたりするのが苦手なケースもあります。このようなお子さまの状況を見て「うちの子、学習障害なのじゃないかしら」とお考えになる保護者の方もいらっしゃるようです。しかし学校の授業にきちんとついていけているのであれば、ひとまず安心してもよいでしょう。

大切なことは、お子さんがどのような状態にあるのかを保護者の皆様がきちんと把握し、それを保護者の皆様がしっかりと受け止めることだと思います。そしてそれぞれのお子さんの特性に合わせて子育てや学習支援や生活支援をおこなうことです。アスペルガーの子は誤解されやすく、ともするといじめの対象になったりします。しかし正しい知識をもってあたれば、子ども達にコミュニケーションの取りかたを学ばせ、集団の中で上手に人と付き合えるようにしていくことも可能な場合もあるのです。

正しい知識と適切な対応こそが、お子さまの明るい未来を造ります。お子さんの特性と上手に付き合っていくことが大切なのだと私は思います。


参考文献
「アスペルガー症候群」 岡田 尊司著 幻冬舎新書
「アスペルガー症候群の難題」 井出 草平著 光文社新書

参考ウェブサイト
「発達障害の糸口」 http://dditoguchi.jp/
「アスペルガー症候群の特徴」 http://asplgaer.cosmeticer.com/sitemap.html

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