モンタネールの傑作「バルセロナのカタルーニャ音楽堂とサン・パウ病院」

カタルーニャ音楽堂の内部空間

暖色と曲線を基調とした喜びあふれるカタルーニャ音楽堂の内部空間

現在、アントニオ・ガウディがバルセロナの建築物の象徴となっているが、20世紀はじめにはガウディの師であるドメネク・イ・モンタネールこそカタルーニャの寵児であり、バルセロナを代表する大建築家だった。

「芸術は人を癒す」という信念のもとに築かれた数々の名建築は、その建物を使用する人々に対する愛情に満ちている。今回はスペインの世界遺産「バルセロナのカタルーニャ音楽堂とサン・パウ病院」を紹介する。

人に寄り添う芸術様式、モデルニスモ

サン・パウ病院のファサード

天使が翼を広げたような、あるいは聖母が両腕を広げたようなサン・パウ病院のファサード。病院の正式名称は、サンタ・クレウ・イ・サン・パウ病院

サン・パウ病院の聖レオポルド分館

サン・パウ病院の聖レオポルド分館。病棟にはそれぞれ名前がついている

バルセロナではしばしば植物の枝や動物の骨のようにグニャグニャと湾曲した曲線で構成された変わった建物を目にする。色彩も独特で、パステルカラーだったり原色だったりと、普通のビルではありえないメルヘンチックな姿で楽しませてくれる。

第一印象は、奇抜。「目立ちたくて造ったんじゃないの?」という疑問が湧いてくるのだが、実際そうした建物の中に身を置いてみると、建築家の目的がまったく違うところにあることを痛感する。

 
サン・パウ病院、廊下天井の装飾

サン・パウ病院、廊下天井の装飾

カタルーニャ音楽堂で感じるのは「喜び」だ。ステンドグラスの色彩の跳躍、散りばめられた華麗な花々、躍動感あふれる女神や動物、空間を支配する圧倒的な音……人の心を震わすための工夫がそこここに見られる。

サン・パウ病院で感じるのはひたすらな「やさしさ」。あふれる光のまぶしさ、パステルカラーの温かさ、曲線の柔らかさ、植物文様や幾何学文様の楽しさ……そのいずれもが、この施設で暮らす人々の幸せを心から願っているのが伝わってくる。

バルセロナで見られるこうした建築様式を「モデルニスモ」という。それは極限まで美を追究した崇高なる芸術といったものとは一線を画す、人の感情にどこまでも寄り添うきわめて人間的な芸術様式なのだ。

 

カタルーニャの繁栄とモデルニスモ

カタルーニャ音楽堂のステージ

華やかなカタルーニャ音楽堂のステージ。中央にあるのはパイプ・オルガン

カタルーニャ音楽堂のチケット売り場

美しいモザイクで彩られたカタルーニャ音楽堂の柱。中にチケット売り場が入っている

モデルニスモはカタルーニャの地域性と深い関係がある。

もともとスペインはカタルーニャ、アラゴン、カスティリャなどの国々が連合してできた国だ。カタルーニャは昔から民族心や独立心の強い地域で独立運動も盛んだった。そして人々は熱い心を持ち、芸術をこよなく愛していた。

15世紀にはじまる大航海時代にはカスティリャ、アラゴンの陰に隠れて低迷し、自治権も奪われていた。しかし18世紀に産業革命が起こると急速に成長し、繁栄を取り戻すと芸術活動が活発化(カタルーニャ・ルネサンス)。華やかさに満ち溢れたまったく新しい芸術様式を生み出した。これが1900年前後に広まったモデルニスモだ。

 

アラベスク風の植物文様

カタルーニャ音楽堂のアラベスク風の植物文様

モデルニスモはそれまでのスペイン・カタルーニャ芸術の粋を集めた運動だ。

スペインのあるイベリア半島は8世紀のウマイヤ朝以降、イスラム教徒の支配を受けてきた。イスラム教では人間や動物の偶像制作が禁じられているので植物や幾何学の文様=アラベスクが発達した。こうしたイスラム教芸術とキリスト教芸術が合わさって生まれたのがムデハル様式だ。

フランスのアールヌーボーは花や木といった植物や昆虫・動物の滑らかな造形をモチーフとした芸術様式だ。もともとこういった造形はムデハル様式やマヌエル様式といったイベリア半島の芸術家たちが得意とするところで、モデルニスモではこれらが融合してさらに自由度を増した。