『レ・ミゼラブル』のジャベールは信心に
翻弄されてしまう男
『レ・ミゼラブル』ジャベール役のアール・カーペンター
「彼も大いに誤解された人物で、みんなは彼が“悪党”だと思ってるけど(笑)、彼は決して“悪党”などではない。ただ自分の仕事をして、人生における自分の使命に信念を持っている警官なんだ。“間違いは間違い”と、心から信じ込んでいる。そして時には“神”、時には“法”への信心によって振り回されてしまう」
――素朴な疑問ですが、ジャベールはなぜあれほどバルジャンに固執するのでしょう?
「バルジャンが仮出獄の期間に逃亡したからだ。逃げたからには獄へ戻さなければならない、とジャベールは一途に信じ込んでいる。だが、バルジャンは思いもよらぬ方法で、ジャベールに物事の違う見方を教える。赦しという概念が存在することを教えるんだ。そして人生を通して、それを証明して見せる。これはジャベールが経験したことのないことだった。この二人のドラマは実に見事なものだと思う。この役をヨーロッパ各地、カナダ、そしてブロードウェイで演じてこれたのはとても光栄なことだと思っているよ」
――新演出版にも出演されているのですか?
「もちろん。最大の違いは、原作者であるヴィクトル・ユーゴーが描いた絵画が、背景として使われていることだと思う。彼の精神が舞台に漲っているようで、素晴らしいアイディアだ。でも、個人的にはトレバー・ナンとジョン・ケアードによる旧演出版のほうが好みだな。旧演出には、いわゆる“ブラックボックス”、すべての情報が与えられるのではなく、観客の想像に委ねる部分があったと思う。観客がより作品に“関わる”部分が大きかったような気がするんだ。新演出は、新たな観客にはフィットすると思う。この目の付け所はさすがマッキントッシュ、賢いよね。実際、映像に慣れた若い世代にこの新演出はとても評判がいいんだ」
“型破り”の訓練を経て大舞台にデビュー
――アールさんはどんな経緯でウェストエンドの舞台にデビューされたのですか?コンサートでのアールさん
ある時、一人芝居を上演したところ、業界人がいろいろ見に来てくれて、その中のとあるエージェントが僕を気に入り、声をかけてきた。彼らと契約して6週間後、ビル・ケンライトというプロデューサーの作品のオーディションを受けて合格、それがロンドンでの初仕事になった。93年のことだ。とてもラッキーなことに、それ以来、切れ目なく仕事が来ているよ」
――歌はどのように訓練されたのですか?
「たまにレッスンも受けたけれど、基本的には“コピー”、真似したんだ(笑)。ダブルカセットレコーダーを持っていたので、『オペラ座の怪人』等のテープを何度もかけ、マイケル・クロフォードやマイケル・ボール、コルム・ウィルキンソンの歌唱を聴き、真似をして歌った。どうやって歌うべきか、どうやったらいけないのかが、少しずつつかめてきたよ」
コルム・ウィルキンソンが演じるオペラ座の怪人
「おそらく『Music of the Night』だろうね。外国語で物語を伝えるような難しさを感じるよ。それにもし調子が良くなければかなりしんどい歌でもある。声域も広いしね」
――俳優として、ポリシーはお持ちですか?
「ファントムにしてもジャベールにしても、演じるということは大きな責任を負うこと。だからいくら楽しそうでも、夜遊びに出たりはしない。それに風邪をひかないようにすることも大切だ。そう言いつつ、僕は今、風邪気味なのだけれど(笑)」
*次頁ではコルム・ウィルキンソンについて、また今回のコンサートへの期待をうかがいます!