プロレスを語る郷田
6歳の頃からプロレス観戦を始めたという郷田。彼は、ガイドが将棋界の聖書と呼ぶ『将棋世界』のインタビューでこう答えている郷田「 (プロレスについて)語らせたらね、そりゃあもう、うるさいですよ」
どう、うるさいのか?こう、うるさいのである。
郷田 「昔ハーリー・レイスが大嫌いだったんですよ。」
ハーリーレイス・・。ご存じだろうか?
プロレスの父、力道山が喉から怪物くんのごとく手を伸ばしても届かなかった、当時世界最高峰のNWAチャンピオンベルト。後年、そのベルトを8回も腰にしたプロレスラーなのだ。将棋で言えば、永世名人、永世竜王である。
彼は続ける。
郷田「だって技がほとんどないじゃないですか(笑)。たま~に出す大技がドロップキック、ヘッドバッド、それにブレーンバスター、これくらいかな。あとはヘッドロックとか地味な技ばかりやってる。あれを子供のころに見て『なんてつまらないんだろう』と思ってました。ただ、いまになって『ああ、強かったんだなぁ』って思います。
ホントにすごく強い選手を見られたのはよかったですね。いまのプロレスラーに一番足りないのは、あのコッテリやる感じですね。観客にとってはいまいち面白くない攻防なんだけど、でもね、あれがいいんだ。あれがプロレス。レスリングだからね」
これを読んだ将棋愛好家の何人が、郷田の思いを理解し得たであろうか?
将棋ファンのために、ガイドが翻訳しよう。
こんな訳でいいでしょうか、マッサン。だって技がほとんどないじゃないですか(笑)。たま~に出す大技が「つき捨て」、「頭たたき」、それに「串刺し」、これくらいかな。あとは「銀ばさみ」とか地味な技ばかりやってる。あれを子供のころに見て「なんてつまらないんだろう」と思ってました。ただ、いまになって「ああ、強かったんだなぁ」って思います。ホントにすごく強い棋士を見られたのはよかったですね。いまの棋士に一番足りないのは、あのコッテリやる感じですね。観戦者にとってはいまいち面白くない攻防なんだけど、でもね、あれがいいんだ。あれがプロ棋戦。将棋だからね。/ガイド翻訳
だから、ガイドは郷田を語る
このインタビューからも、郷田のプロレス通ぶりがおわかりいただけたことと思うが、さらにたたみかけたい。ガイドは郷田がプロレス技について解説する映像を目にしたことがある。「カーフ・ブランディング」という技についての解説だった。この技、プロレスファンでも知らない方がいるのではないだろうか。和名は「子牛の焼き印押し」である。まず、相手をコーナーポストに振る。そして、自らはロープ最上段に登り、相手の背後から後頭部をつかむ。そのまま、リングに倒れ込み、全体重を相手の頭に浴びせかける恐るべき技である。ディック・マードックというレスラーが得意にしていた技だ。郷田はこの技を将棋にたとえて見せた。ほれぼれするたとえである。さすがに郷田。他の棋士にはできぬ解説である。郷田「(子牛の焼き印押しは)将棋で言えば『がっちゃん銀』です」
さて、ここまでで読んでいただけた方は、こう思われたのではないだろうか。
「何だか、このガイドもプロレス好きなんじゃない?」
もっともな疑問である。そして、嬉しくも、ありがたい疑問である。薄々、お察しいただけたかとも思うが、私はプロレスの大ファンだ。だからこそ、郷田を語れる。いや、違う、郷田を語りたい。
ガイドは断言する。郷田の将棋はプロレスである。以下の章で、熱く、いや、暑苦しいほどに語りたい。