世界遺産/アフリカ・オセアニアの世界遺産

アイット・ベン・ハドゥ/モロッコ(2ページ目)

サハラ砂漠を縦断するキャラバンは、クサルと呼ばれるオアシス都市で旅の疲れを癒したという。クサルは難攻不落の要塞で、敵襲はもちろん砂漠の気候に耐える工夫に満ちている。そんなクサルの中でもっとも美しいとされるのがアイット・ベン・ハドゥだ。そのエキゾティックな姿から『シェルタリング・スカイ』をはじめ数多くの映画のロケ地となった。今回はモロッコの世界遺産「アイット・ベン・ハドゥの集落」を紹介する。

長谷川 大

執筆者:長谷川 大

世界遺産ガイド

敵襲と砂漠に備えるカスバの工夫

カスバを見下ろす

丘の上からカスバを見下ろす。カスバが城壁のように連なっているのがわかる

カスバの内部

カスバの内部。天井の木組が見える

個々のカスバも工夫に満ちている。

3階建てのカスバの場合、1階は家畜小屋で2階が食糧庫、そして3階が住居となっている。屋根の上の塔のような場所で敵を偵察し、敵襲を受けたら迎撃を行う。一つひとつのカスバがそのまま砦になる形だ。

カスバは砂や粘土にワラなどの有機物を加えたアドベで造られており、アドベは固めて日干しレンガにしたり、レンガ壁や石壁を塗り込める漆喰として利用されている。アドベは熱の吸収効率が悪いので、昼間は外の熱を遮断し、夜は室内の暖を保って寒暖の差が激しい砂漠地帯の気候に対応している。

また、所々に木材や竹を使用して鉄筋コンクリートの鉄筋のように耐久性を高め、寒暖の差による伸縮に耐えている。同時に、食糧庫などに木材を利用することで湿度をコントロールしてもいるようだ。

 

カスバのこうした工夫によって村の人々は部族間闘争や盗賊から身を守り、砂漠地帯の熱波や乾燥に耐え、17世紀から約500年にわたって生き抜いてきた。

ベルベル人の誇り、アイット・ベン・ハドゥ

アイット・ベン・ハドゥの情緒あふれる路地

アイット・ベン・ハドゥの情緒あふれる路地。カスバの下層の鉄製の窓は近年取り付けられたもの

荒野にたたずむ異国情緒あふれる姿から、アイット・ベン・ハドゥは数多くの映画のロケ地として使われてきた。以下がその一例だ(括弧内は制作年)。
    壁の構造

    壁の構造がよくわかる。上段がアドベの日干しレンガ、下段は石垣

  • アラビアのロレンス(1962年)
  • ソドムとゴモラ(1963年)
  • バンデットQ (1981年)
  • ナイルの宝石(1985年)
  • 007 リビング・デイライツ(1987年)
  • シェルタリング・スカイ(1990年)
  • クンドゥン(1997年)
  • ハムナプトラ/失われた砂漠の都(1999年)
  • グラディエーター(2000年)
  • アレキサンダー(2004年)
  • キングダム・オブ・ヘブン(2005年)
  • バベル(2006年)
  • プリンス・オブ・ペルシャ/時間の砂(2010年)
  • サン・オブ・ゴッド(2014年)

  •  
アガディール

丘の上に立つアガディールと呼ばれる食糧貯蔵庫兼見張り台

特に『シェルタリング・スカイ』では近郊の大砂漠地帯メルズーカの絶景も映し出されており、とても思い出深い。訪ねる際には一度見ておきたい映画だ。

現在、アイット・ベン・ハドゥに住むのは7~10戸ほど。多くの村人は電気やガスや水道のある生活を求めて川の対岸の村に移住している。

こうしたカスバは10~20年ほどで風雨に浸食されて住めなくなり、やがて風化してしまうのだという。しかし、アイット・ベン・ハドゥは住民を守り続けてきたベルベル人の誇りであり、いまだに昔ながらの製法でアドベを生産して修理・修復が行われている。

その美しい姿は500年前の姿のままあり続け、いまも多くの旅行者を迎え入れている。

 

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