美しき要塞村「アイット・ベン・ハドゥの集落」

川の対岸から見上げたアイット・ベン・ハドゥ

川の対岸から見上げたアイット・ベン・ハドゥ。この辺りにはこうしたクサルがいくつも点在している

ベルベル人が荒野に築いた要塞村、アイット・ベン・ハドゥ。サハラ砂漠を縦断するサハラ交易の要衝に築かれ、ラクダを従えて砂漠を渡るキャラバン(隊商)に癒しを与えて繁栄した。

そしてそのエキゾティックな姿は多くの旅行者を魅了し、『シェルタリング・スカイ』『ハムナプトラ』『グラディエーター』をはじめ数多くの映画のロケ地として使用されてきた。今回はそんなモロッコの世界遺産「アイット・ベン・ハドゥの集落」を紹介する。

モロッコのダイナミックな景観とサハラ交易

丘の上から周囲を眺める

丘の上から周囲を眺める。緑があるのは川沿いのみという乾燥地帯。南に進むとやがてサハラ砂漠に到達する

アトラス山脈の美しい景観

アトラス山脈の美しい景観。最高峰はツブカル山で標高4167mを誇る

モロッコの国土は、北は地中海、西は大西洋に面しており、東と南はアトラス山脈を挟んでサハラ砂漠が広がっている。

地中海沿岸部は温暖で平地に緑が広がる一方で、標高4,000mを超えるアトラス山脈では森林や万年雪が見られ、砂漠に入ればメルズーカのようなデューン(大砂丘)が連なっている。海から草原・森林を経て山を越え、やがて岩石砂漠や砂砂漠に至る景色の変化は実にダイナミックで見事だ。モロッコの旅ではこの車窓の景色が何よりの楽しみだったりする。

 

ティシュカ峠

マラケシュからアイット・ベン・ハドゥに向かう途中にある標高2260mのティシュカ峠。この辺りになると木も生えていない

これだけ気候や景色が違うと地域によって特産物や必要とされる物も異なるわけで、隊商貿易が古代から盛んに行われていた。特にベルベル人たちはサハラ砂漠をも縦断してニジェール川に至り、西アフリカ諸国と交易を行った。このサハラ交易は塩金交易ともいわれ、地中海側の塩と西アフリカの金を交換することで両サイドの国々に莫大な富をもたらした。

そしてベルベル人はそんな交易ルート上に「カスバ」と呼ばれる城砦建築からなる隊商都市「クサル」を築き、通行税を取る代わりにキャラバンの便宜を図った。最盛期には千を超えるクサルがあり、こうした交易ルートは「カスバ街道」と呼ばれたが、その中でもっとも美しいと称されたのがハドゥ家のクサル=アイット・ベン・ハドゥなのだ。

 

カスバを単位としたクサルの構造

カスバの拡大写真

中央、ヤシの木の後ろにある建物が典型的なカスバ。直方体の建物で、これが連なってクサルを形成する

アドベの土壁

カスバの外壁を構成するアドベの土壁。よく見るとワラが入れてあるのがわかる

アイット・ベン・ハドゥは小高い丘を背に四角い建物が集まってピラミッド状の村を構成している。正面には川が流れており、これも堀の役を果たしているようだ。

個々の建物は、四方に塔のような構造物を持つ一種の城砦で、これをカスバという。複数階建てだが、村の外から見ると1階にはドアも窓もほとんどなくのっぺりとしている。窓は上層階にのみ設けられていて、所々に小さな穴が開いている。

村の外側にこうしたカスバを隙間なく並べることで城壁としている。入口は1か所しか存在せず、敵が襲来してきたら小さな穴=銃眼から銃口を伸ばして応戦するわけだ。

 

アイット・ベン・ハドゥの農地

クサルの外では川の水を利用して農業を行っていた

また、村の内部にもカスバを複雑に並べて迷路を作り、容易に攻略できない構造になっている。道は狭くてカスバの下を潜り抜けなければならない場所もあり、こうした場所を防いで敵を封じ込めるのだ。その造りは日本の世界遺産「姫路城」を彷彿させる。

個々のカスバに食糧庫があるうえに、丘の上の貯蔵庫に水と食料が保管されており、籠城戦さえ可能だった。カスバを並べて築き上げられたこうした要塞村をクサルという。