ラクトバチルス・ガセリ(ガセリ菌)のお味はよくご存知でしょう?rDNAガセリ菌はカプセルになるようですが……

ラクトバチルス・ガセリ(ガセリ菌)のお味はよくご存知でしょう?
rDNAガセリ菌はカプセルになるようですが……

乳酸菌カプセルを飲むと血糖値が下がる!という夢の様なプロバイオティクスの話題で世界中が持ち切りです。まだまだ動物実験の段階ですが、新しい糖尿病治療法への道が拓けるような奇想天外な論文が2015年1月27日の糖尿病学術誌「Diabetes」に発表されました。

なんと、膵島(すいとう=ランゲルハンス島)のベータ細胞ではなく、腸内分泌細胞がインスリンを産生したのです。遺伝子組み換えをした乳酸菌を糖尿病ラットに与えて、小腸上皮細胞にインスリンを分泌させました。乳酸菌がインスリンをつくったのではなく、乳酸菌はインクレチンでおなじみのGLP-1(1-37)をつくり、そのGLP-1(1-37)の刺激を受けて腸内分泌細胞が膵ベータ細胞様にリプログラムされたのです。

なぜ腸の細胞がインスリンを産生できるのか?

今回、糖尿病ラットに遺伝子組み換え乳酸菌を与えて血糖降下作用を確認したのは(米)コーネル大学のJohn March准教授と2人の共同研究です。

しかし、この論文が"よって立つところの独創的な原論文"は、うれしいことに日本の科学者が発表したものです。
2003年に筑波大学から博士号を取得したばかりの若き研究者、鈴木淳史(現・九州大学教授)と2人の共同研究者が、同じ年の2003年に発表した「GLP-1(1-37)が腸上皮細胞をインスリン産生細胞に換える」という論文です。私は日本語の当論文を読んだことがないので、この論文名や以下の記事の言葉遣いが不適切かもしれません。その旨ご了承ください。

さて、ここまで、GLP-1(1-37)と表記してきましたが、(1-37)というのはGLP-1のペプチド全てのアミノ酸が1位から37位まで連結したものを意味します。実はこのフルサイズのGLP-1(1-37)はインスリン分泌を強めるようなGLP-1としての生理活性がないのです。その役割が不明でした。インクレチンとして治療に使われているGLP-1は、(7-36)あるいは(7-37)と、ペプチドの頭の部分のアミノ酸が6個切り離されたものです。このため、インクレチン作用には7位のアミノ酸(ヒスチジン)のN-末端が必要と考えられています。

GLP-1(1-37)の役割がよく分からないのに、なぜか膵島のアルファ細胞にはこれが少量あります。そこで鈴木淳史教授らは膵島細胞の発生と分化、およびその維持に重要なNotchシグナリングにこのGLP-1(1-37)が関与しているのではないかと仮定しました。そして薬品でインスリン依存状態(自己インスリンのない1型糖尿病)にしたラットの各組織を取り出してGLP-1(1-37)を投与したところ、驚くことに腸上皮細胞にグルカゴンとインスリンが現れたのです。胎児が発生するとき、膵臓は腸の上皮の「芽」としてふくれ出てきます。そのとき既に腸の上皮には腸内分泌細胞がつくられつつあり、膵臓の「芽」にもその一部が含まれていて、これが増殖して膵島という内分泌細胞集団になります。ですから膵島の細胞は腸内分泌細胞のほんとうの兄弟なのです。

すべての上皮細胞からインスリンがでる訳ではありませんが、インスリン分泌のある空腸の組織を1型ラットに移植したところ、空腹時血糖値の低下が見られました。つまり基礎インスリンがある証しです。

もちろん、研究は緻密かつ正確に行われましたので疑問の余地はないのですが、なんと言っても小腸の粘液に覆われた上皮細胞にGLP-1(1-37)を常に届ける方法がないのです。

活きている乳酸菌にGLP-1(1-37)を放出させる凄ワザ!

炭水化物を栄養にして主に乳酸を最終産物とする細菌を乳酸菌と言います。単一の菌ではなく、当然ながらいろいろな菌種があります。GLP-1(1-37)を小腸に届ける術(すべ)がないのなら、小腸上皮細胞の表面を住み処(すみか)にしているフレンドリーな腸内細菌、つまり、ヒト由来の乳酸菌にGLP-1(1-37)を放出させて腸内分泌細胞をベータ細胞様にしてしまおうというのが今回のコーネル大学、John March准教授らの卓越した発想、超絶技巧です。

なぜインスリンの後発薬がないのか?」で説明したように、既に私達が使っているインスリンは遺伝子組換え技術を使った無害な大腸菌や酵母菌が作りだしたものです。もう、技術も実績も確立しています。

乳酸菌のなかでも小腸に長くとどまるとされるヒト由来のLactobacillus gasseri(ガセリ菌)にヒトのGLP-1(1-37)遺伝子を組み入れました。小腸上皮細胞の表面にぴったりと腸内細菌がくっついている写真を見たことがありますが、腸内細菌にとって激流のような腸内環境にとどまって繁殖するには粘液に入り込むのがベストチョイスで、その許認可を与えているのが「糖尿病と腸内細菌 小児発症の1型糖尿病にも関与か!?」で説明したとおり、免疫システムの抗体なのです。ガセリ菌が長くとどまるのなら、さぞ抗体の「お気に入り」で、腸内分泌細胞の表面に密着できるのでしょう。

rDNA乳酸菌の成果と今後の展開

糖尿病の高血糖状態にされたラットは90日間このrDNA乳酸菌を与えられ、実験終了時には血糖値が30%下がっていました。

腸内分泌細胞を膵島ベータ細胞様にリプログラムすると言うのは、ただインスリンを分泌させるのではありません。正常なベータ細胞と同じように、高血糖時のみにインスリンを分泌するようになるのです。コントロール群の健常ラットにこの乳酸菌を与えても、血糖値の変化が起きなかったことが確認されています。

さて、rDNA乳酸菌の投与量を増やすと糖尿病治療になるのでしょうか?また、長期の反復投与の影響はどうでしょう?

すべてはこれからです。

コーネル大学はライセンスをBioPancreate Inc.に与えています。そして、このrDNA乳酸菌はBioPancreate-2001とネーミングされて、rDNA乳酸菌がインスリン分泌につながるイメージが公開されています。

このBioPancreate Inc.の親会社がスウェーデンに本社があり、米国に拠点を持つCORTENDOで、この会社は希少内分泌疾病用薬品(オーファン・ドラッグ)の開発を目指す医療ベンチャー企業です。

Cortendoは年末までにこのBP-2001を新薬として検討する臨床試験の申請をFDA(米・食品医薬品局)に行う意向を明らかにしています。臨床第1相研究終了の際にはパートナーと共同開発することを明言していますので、rDNA薬品に実績のあるインスリンメーカー御三家をはじめ、世界中の大企業が注目していると思います。

開発者のJohn March准教授によると、第3相終了までに10年は掛かるのではないか、ということです。お楽しみに!


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