「正しい歩き方」を意識したことはありますか?
「理想の歩き方」を意識したことはありますか?
不自由なく歩けているのにそれが正しいかどうかなんて、そう意識の高い方でないとわざわざ確認はしないかもしれません。また、そもそも何が正しい歩き方なのか不確かな中で、自分をその基準に照らして確認することも難しいかもしれませんね。
しかし、ヒトの進化の過程をみると、どのような歩き方が理想的であるかは、ある程度推測できるのです。そして、その理想的な歩き方に照らし合わせてみると、多くの人の歩き方は異常または不自然な状態になっています。
では、正しい歩き方とは何かを考えてみましょう。そのヒントは私たちの骨格にあります。今回は人間に一番近いとされる類人猿と比較することで、私たちの特徴を確認していきましょう。
ヒトの踵は歩くことに特化している
一つ目の特徴は、私たちの「踵」です。ヒトの踵は類人猿の倍くらいあります。さらに踵の脂肪層はとても厚く、クッションの役割を担っています。これが何を意味するかというと、私たちは踵から歩く動物だということです。走ることに特化した動物は踵がなくなっていきます。代表格が馬ですね。馬の蹄は人間でいう中指にあたり、踵はとっても上に位置します。踵から着地というのは一般的にも言われていますが、骨格から見ても正解なのです。ちなみに、走るときは着きません。陸上の短距離用のシューズを見ると踵がそもそもありません。走るときは足の前の方のみが接地します。
ヒトは前に「転倒する」ことで歩いている?
二つ目の特徴は、膝と股関節が伸びて真っ直ぐになっていることです。当たり前と思われそうですが、類人猿はどちらも曲がっていますし、四足動物も膝は伸び気味のものもありますが、股関節はさすがに曲がっています。ヒトは膝と股関節を伸ばすことで、体よりも脚を後方に、逆に言うと、脚よりも体を前に位置させることで効率的に前に移動することを可能にしています。これは、前に転倒する力を生み出しているといえます。猿回しの猿も、調教を1年以上すると、膝も股関節も伸びてくることが確かめられています。
ヒトの鼠径部(股関節)の後ろへの開き(医学用語では伸展と言います)は、角度でいうと約15度になります。これだけの角度を使うのは日常では歩くときだけです。ですから、歩かなくなると途端に影響を受けるのが股関節と言えます。
また、股関節の開きが無くなると、足部の蹴りも困難になります。前にしか、脚が出ないと足部の蹴りはできないのです。脚が後ろにいく(骨盤が前に移動する)ことで床との距離が延長するために、その距離を埋めるのが足部の蹴り、つまり踵上げなのです。よく転倒予防などで、「すり足」が良くないと言いますが、すってしまうのは股関節が開いていないからなんですね。
試しに、立った状態から体を動かさずに片脚だけを後ろに引いてみて下さい。すると引いた側の足部は勝手に踵が上がって、爪先立ちになるはずです。これが実は蹴りなのですね。
現場で診る患者さんでも、すり足を指摘されて悩んでいた方に股関節の柔軟性をご説明しただけで、勝手に蹴るようになり驚かれることが多々あります。足部の蹴りを意識しなくても、鼠径部を開いて、脚を後ろに送るという意識だけで勝手に蹴るようになるのです。
「足は第二の心臓」ですから、しっかりと踵が上がってふくらはぎを使うことは循環の側面からも重要です。
腕よりも脚が長いこともヒトの特徴です。類人猿の場合は脚が短く腕が長いですね。先ほどの脚が伸びてきたということと関連している特徴です。
二足歩行最大の利点は、腕が自由に動くこと
三つ目の特徴は、胸郭が楕円ということです。類人猿は円錐型をしています。ヒトは体を捻るという特徴があるため、回りやすい楕円になったと考えられます。私たちの二足歩行の最大の利点は、腕が自由に動かせるということです。これによって巧緻動作が発達し、道具を作り、字などの表現も可能になったのです。歩くときの腕は、脱力をして振るのが本来です。
多くの肩の問題は、腕を引いて使うために起こります。肩がけバッグやPCのキーボード、マウス操作など現代は腕を自由に振ることが少なくなったと言えます。
これまで見てきた患者さんの中にも、肩がけバッグをリュックに変え、腕を振ることを意識されただけで、肩の痛みがなくなった方もいます。
理想の歩き方、3つのポイント
このように見てくると、正しく歩くためのポイントが見えてきます。- 歩くときには踵から
- 鼠径部をよく開く
- 腕を脱力して振る
いかがでしたか?進化という経過の中で、ヒトが獲得してきた骨格から、正しい歩きを推測してきました。骨格の特徴はこのほかにもいくつもありますが、今回は特に三点に絞ってお伝えしました。
これらを皆さんの歩きに取り入れて見て下さい。日々の積み重ねが体を作っていきます。健康をナチュラルな歩きから作ってみて下さい。