広報偏重の採用戦略からの脱却
新卒採用を考えるとき、真っ先に検討を始めるのは広報活動ではないだろうか。どの媒体にどんな広告を出すのかということや、実施する採用イベントのプログラムを考える作業はクリエイティブな要素が多く楽しいものである。しかし、言うまでもなく採用活動は、その後の面接や内定後のフォローまでを含めた一連のプロセスのもとに成り立つものであり、プロセス全体の戦略の巧拙が成否を決める。そもそも採用広報の役割は応募者を多く集めることであるが、昨今のネットを主体とした採用活動では、その手軽さゆえに必要以上に多く集めようとする傾向が見受けられる。事実、大手企業では3万人を超える学生のエントリーを集めることも珍しくなく、まるで数の多さを競っているかのようにさえ見える。
しかし、多くのコストを費やして母集団を拡大することにほとんど意味はない。“優秀な学生を採るためには多くの学生にリーチしたほうが良い”という発想で母集団形成を重視しがちだが、実は効率が悪い。仮に100名の採用目標に対して1万人の応募者がいても、実にその99%に不採用を通知することになるからである。採用力を強化するためには、限られたコストを採用プロセス全体に適正に配分し、より効果的な活動を志向すべきなのである。
採用活動をマーケティングプロセスで考える
マーケティングの世界では、消費者の購買決定プロセスは“AIDMA”と言われる以下の5つのステップから成ると言われている。(1) 注意の喚起 [Attention]
(2) 興味の刺激 [Interest]
(3) 欲求の発出 [Desire]
(4) 動機づけ [Motive]
(5) 行動 [Action]
例えば車を購入する場合、テレビのCMで新製品の発売を知り[Attention]、ネットで詳しく調べてその車への興味が深まる[Interest]。そして、ディーラーでの試乗を通して買いたいという欲求が高まり[Desire]、販売員の巧みな話術でその車を買うべき正当性を見つけ[Motive]、契約書にハンコを押す[Action]という流れになる。
こうした購買のステップは、実は採用活動にも応用できる。モノを買うという行為も就職活動も、一連の意思決定のプロセスに他ならないからだ。ともすれば、会社は採用活動を、“自社への関心を高める広報フェーズ”と“面接による選考フェーズ”に二分して捉えがちであるが、候補者にとっては、企業の発見から応募、面接、入社決定に至るまでの全ての行動は就職先決定の一貫したプロセスなのである。