ミュージカルに出演するのは恐い、
大劇場で演出するのは恐い…と周りを気にする傾向
——最近、ミュージカルの演出家を目指している若者は多いのでしょうか。僕の周りには何人かいますが、多くはないです。半年にひとりくらい、門を叩いてくる人もいます。しかし僕は敢えてすぐに「はい」とは言いません。
——簡単な道ではないですからね。まずは模索したりいろいろ壁にぶつかったりが必要かも。
意地でのし上がって傍まで来てもらえれば、僕はいくらでも助けますよ。でも0からは救わないようにしています。自分でのし上がってきたほうが、後で自分に自信がつくからです。
——劇場も作品数も増えている気がするけれども、ではミュージカルにすごく広がりがあるのかというと謎の面もあります。大学のミュージカル科は女性ばかりという話も聞きます。
そうですね。キャストもスタッフも女性が多いですね。キャストに関しては、ミュージカルに出演するのは恐いという男性も多いです。歌や演技で叩かれたらおしまいだと、きっと社会の評価を気にしているのでしょう。
またKAAT(神奈川芸術劇場)の芸術監督だった時、若い演出家に1000人キャパの劇場で上演してほしいと、あちらこちらに声をかけたのですが、恐くてできないという方が多かったです。僕は単純だから、大きな劇場だったら「チャレンジだ、よし!」とすぐ返事をしてしまうのですが。まずは失敗を恐れる。特にミュージカルは特殊な世界だから恐いと言う方もいて、キャストも歌が下手だと言われるのが恐い。今は無鉄砲にいきにくいのか、皆さん周りを大変気にする。
——それはネットでつぶやかれたり、ブログに書かれたり、ダイレクトに反応があるからでしょうか?絶好のチャンスでもあるはずなのに。
チャンスと思えるのはポジティブ・シンキングになれる人だけ。あと劇場空間では、小劇場でやっていたほうが表現として自分の形になるという人も多い。そういう人には大劇場でやる意味を見いだせないのでしょう。大きいことはいいことだという時代ではもちろんありません。むしろ小さな空間で自分たちの表現を丁寧にやるという考え方も増えている。そうなると、ミュージカルみたいにオーケストラが入ったり、それが録音だとしても、複合的に大きくならざるを得ない作品に対して興味を示さない人が、日本の場合は多いですね。
これがアメリカやイギリス、アジアの先進国だと大きいビジネスに発展させて大衆を掴もう、となるのですが、日本の場合はなかなか火がつかないですね。
——国民性もあるのでしょうか。
日本は国内で循環していれば、充分まかなえる平和な国だから、背伸びなどする必要がないと思っているのかもしれませんね。
——そんな中で、亜門さんは日本でも海外でもチャレンジし続けていらっしゃいます。そのチャレンジ精神はどこから湧いて来るのですか。
僕は単純にこんな面白い国、場所に生まれて仕事ができるのなら、世界中の素敵なもの、魅力的な人たちと感じ合い、コラボレーションをしたいのです。ソンドハイムやジョン・グエア、ディック・リーなどなど、個性を磨き上げてきた人たちの面白さはたまらない。そういう出会いが重なると僕も一段と興奮でき、自分を磨ける。
日本にいることも素晴らしいけれども、やはり現地に行ってみないとわからないことが多いです。一緒にクリエーションして直接肌で感じられるのは楽しいし、興味がある。僕は国や人種を越えたクリエーションを、一生やり続けたいんです。
■宮本亜門さんの今後の演出作品
ドロシー役の梅田彩佳さん、田野優花さん
2015年3月7日 (土) ~2015年3月22日 (日) 東京国際フォーラム ホールC
2015年4月4日 (土) ~2015年4月5日 (日) 梅田芸術劇場メインホール
2015年4月18日 (土) ~2015年4月19日 (日) 愛知県芸術劇場 大ホール
2015年4月25日 (土) ~2015年4月26日 (日) キャナルシティ劇場
☆来月以降で、『ウィズ~オズの魔法使い~』のキャストをインタビュー予定。亜門さんによる主演2人の起用理由も掲載しますのでお楽しみに!
《リンツ州立劇場との共同制作公演》
東京二期会オペラ劇場『魔笛』
2015年7月16日(木)~20日(月・祝) 東京文化会館 大ホール