絵本

働く楽しさ溢れる絵本『夜明けまえから暗くなるまで』

昔はどこの国にも、親も子も懸命に働かなければならない時代がありました。そんな時代のアメリカの農場一家を描いた絵本をご紹介します。辛いこともあるけれど、働く喜びや楽しさに溢れた人々の暮らしが見えてくる作品です。

執筆者:大橋 悦子

 古き良きアメリカの農村を描いた『夜明けまえから暗くなるまで』

最近の子どもはお手伝いをしないという声をよく聞きます。ところが、花王株式会社の調査(「子どものお手伝い」を考える)によれば、1984年の調査に比べて手伝いをする子どもが増えているそうです。おや! 統計的には、お手伝いをしていなかったのは、むしろお父さん・お母さんの世代だったのですね?!

そんな現在の子育て世代よりももっと昔、親も子も懸命に働き続けなければならない時代がありました。そのような時代のアメリカの農村を描いた絵本『夜明けまえから暗くなるまで』をご紹介します。辛いこともあるけれど働く喜びや楽しさに溢れた人々の暮らしが描かれた、著者の自伝的作品です。

大人も子どもも働く、働く、そして遊ぶ!

『夜明けまえから 暗くなるまで』の表紙画像

働く喜びを描き出すアゼアリアンの版画絵も見応えがあります

舞台は、数十年まえのアメリカ・バーモント州。かの地の冬は長く厳しく、その寒さに手足は凍えて痛みすら感じなくなるそうです。主人公一家は、そんな極寒地の丘の上にある農場で暮しています。農場の仕事は山ほどあって、家族みんなが夜明けまえから暗くなるまで、それはもう一日中働かなければなりませんでした。

こんな風に書くと、この作品が何か辛く厳しい物語のように思われるかもしれませんが、決してそうではありません。温かで躍動感に満ちたアゼアリアンの絵の助けもあって、描かれる子どもたちの様子に思わず笑みがこぼれるような明るい作品なのです。

例えば、砂糖づくりの仕事は骨まで凍りそうな厳しい寒さの中で始まりますが、暖かな砂糖小屋での作業はメープルキャンディのおやつを作る楽しみがあって、子どもたちは本当に楽しそうです。

車が抜け出せなくなるほど道がぬかるむ季節がくれば、人々は車を助け出すのに大忙しで、農作業の手も止まりがちになります。けれど、ご近所同士が助け合ってこの時期を乗り切ります。昼間に遊ぶ時間がない子どもたちも、夏になれば蛍の光だけを頼りに野球に興じます。なんともアメリカらしいお楽しみですね。こんな風に、美しいけれど厳しい自然環境の中で、大人も子どももよく働きよく遊び、心豊かで幸せな暮らしをおくっているのです。

アメリカ合衆国の地図

カナダに隣接することからも厳しい寒さが想像できるバーモント州

お手伝いの域を超え、生活の担い手となる子どもたちですが、その姿には働く楽しさや働けることの喜びがあふれています。大きくなったらこの地を出ていきたいと考えていた子どもたちのほとんどがこの地に残り、今も同じように暮らしているという記述に作者の想いがうつしだされているようです。

さて、ここで1つご提案があります。作者のナタリー・キンジー-ワーノックには、絵本だけでなく『スウィート・メモリーズ』や『おばあちゃんのキルト』のような、アメリカの古き良き時代の雰囲気を感じさせる児童文学作品があります。お子さんへの読み聞かせに合わせて、お父さん・お母さんもこれらの作品を読んでみてはいかがでしょうか? 家族の中に楽しそうに本を読む人がいるというのは、お子さんにとって蔵書の数が多いことよりもずっと大切な読書環境になることでしょう。


【書籍DATA】
ナタリー・キンジー-ワーノック:作 メアリー・アゼアリアン:絵 千葉茂樹:訳
価格:1188円
出版社:BL出版
推奨年齢:小学生から
購入はこちらから 


※ 著者名の表記について
ナタリー・キンジー-ワーノックは、訳出された本によりキンシーと紹介されるなど、いくつかの表記がとられています。今回は混乱を避けるため、ご紹介絵本に合わせ「ナタリー・キンジー-ワーノック」で統一しました。

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※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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