”ミュージカル俳優”との出会いに触発され、オーディションを受験
『ロミオ&ジュリエット』
――多くのミュージカル・ファンにとっては、やはり『ロミオ&ジュリエット』のティボルトが鮮烈だったと思います。これもオーディションだったのですか?
「それまではミュージカルって観るのもやるのも、ちょっと苦手分野だったんです。歌は歌、芝居は芝居と言う感覚が僕の中にあって、(それが融合しているミュージカルは)ちょっと違うかな、と。でも『コーヒープリンス一号店』というミュージカルで山崎育三郎君と共演して、彼がその垣根をいとも簡単に飛び越えてゆくのを見て、同世代なのにものすごい表現力だと思ったんですよ。これがいわゆるミュージカル俳優と言うものなのか、もっと一緒に芝居がしたい、と思って、それがきっかけで本格的にミュージカルに興味が芽生えて、『ロミオ&ジュリエット』のオーディションを受けることにしました」
――ティボルト役で合格され、小池修一郎さんの演出を初体験。いかがでしたか?
「やっぱり分からないことだらけで、だいぶ絞られました(笑)。自分がそれまでやってきたものとはだいぶ違って、培ってきたものが役に立たないというわけではないけれど、時に邪魔をすることがあって。癖だったりを取り除く作業、まずはそこからだったんですね。
鼻を折られたというか、正直、稽古場に行きたくないと思ったこともあったけれど、そんななかでも仲間たちがいろんなことを教えてくれて、あの仲間がいたからできたと思います。荒削りでも自分ができる精いっぱいをやればいいのかなと、途中から思えてきたんですよね。誰もが同じになっても仕方ないし、自分なりのティボルトというものを見せないとやる意味がないと思えました。前回公演のキャストと同じことをやっても仕方ないし、ダブルキャストの(城田)優さんにも彼なりの解釈がある。小池さんもそれにあわせて“優はこうしよう、和樹はこうしよう”と役者をみながら演出をしてくださったので、そこはやりやすかったです」
――その食らいつきが、『レディ・ベス』のロビン役に繋がっていったのでしょうね。
『レディ・ベス』写真提供・東宝演劇部
「どうなんでしょう(笑)。そこは分かりませんけど、『レディ・ベス』のオーディションはちょうど『ロミオ&ジュリエット』の稽古中にあって、自分史上、一番ダメなオーディションでした(笑)。(ロビンのテーマ的な)『俺は流れ者』を歌ったんですけど、今まで受けた中で一番スタッフさんも多くて、もちろん小池さんもリーバイさんもいらっしゃって、“見られてる”と思うと練習通りに歌えませんでした。
歌った後にリーバイさんが“もう一回こういう感じで歌ってみてくれないか”と言って、小池さんが椅子を用意して“ここにべスがいると思ってべスに向かって歌って”とおっしゃってくれたんですが、やればやるほど自分がちっちゃく感じられて。“どこまで恥をかけばいいんだ”と思いながら、半分やけくそで歌ったんですよ。それがリーバイさんに受けたらしくて、泣きそうになりながらオーディション会場を後にした翌日、小池先生から“好評だったよ”と聞きました。後日、ロビン役に決まったと言われて、誰よりも疑いましたね(笑)。
稽古に入ってからもロビン役はすごく大変でした。育三郎君とWキャストということで、得るものはたくさんあるし、盗めるものは盗んで……と思ってたんですけど、それ以前に自分の芝居、歌にいっぱいいっぱいになってしまって、稽古場で小池さんに一生忘れられない一言を言われてしまいました。“この役を演じたことが君にとって良かったのか、悪かったのか”。これにどこかかちんと来まして(笑)、“絶対やってやる!”と。そこでどこかふっきれた部分があって、育三郎君と同じことをやらなくてもいいんだ、自分なりのロビンを生きようと、小池さんに“自分はこう思います”と言いながら役を作っていきました。自分なりのロビンができたかなと思えたのは、初日が開けてからです。
公演期間は長かったけれど、やればやるほど、相手のべス役が(ダブルキャストで)変わることによってもいろんな面が見えてきて、全く飽きることなく演じ続けられました。(絡みのある)アスカム役の山口祐一郎さんが僕の変化に応じて下さったのも嬉しかったです。逆に、山口さんの出してこられたものにもきちんと対応しないといけない。芝居の基本というものが見直せたし、ミュージカルといっても芝居には変わりないと再確認できたのが、自分の中では大きな収穫でしたね」
――今後、どんな表現者をめざしていらっしゃいますか?
「ちゃんとお芝居を伝えられる役者になりたいなと思いますね。ミュージカルだからといって歌だけではない、基本はお芝居。ミュージカルだからうまく歌おう、ではなく、作品が伝えたいことをちゃんと音楽にして芝居として伝えないと、ただのコンサートになってしまうので、気持ちの入った歌というものを目指したいですね。
いろいろな歌唱ができるようになるには、やはり基礎をしっかり身に着けないといけないと思うので、今はまだ技術的な訓練を積みながら、その上で自由な表現ができるよう、毎日発声はやっています。独学でやっているとかつてはサボってしまうこともあったけれど(笑)、やっぱり継続に勝るものはないと今は思えるので。それはお芝居も同じで、基本をしっかりおさえてから応用するということをやっていきたいですね」
――今後やってみたい演目などはありますか?
「もっともっと作品を観なければと思って、最近も『モーツァルト!』を観にいきましたが、『エリザベート』は好きで何回も観ていますね。いつかはやってみたい演目です。武田真治さんとドラマをご一緒していた時に出演されると聞いて初めて観に行ったんですけど、武田さんのトートがすごく堂々として素晴らしかったです。その後もルドルフ役が知り合いばかりだったのもあって何度も観ていますが、あの世界観、好きですね」
――トートの扮装、似合いそうです。
「まだ自分では想像できませんけれど(笑)。これからいろいろな作品を観て、自分で挑戦したいというものを方向づけてやっていきたいなと思います。そうした中で今年の『ボンベイドリームス』『タイタニック』は自分のターニングポイントになると思うので、まずはそこで全力投球をしてからと思います」
――演出家のヴィジョンを体現するミュージカルと、ご自身を全開できる音楽活動。二つのチャンネルが、加藤さんの中で互いによい影響を及ぼしているのですね。
「だからこそ難しい部分もありますけれど。昨年『レディ・ベス』を経験して改めて喉が鍛えられ、より自由に表現できるようになったのは大きな収穫でした。いかに自分がそれまで足りなかったか。だからこそ見えてくる部分もいっぱい出てきました。まだまだいけるな、できるなという感覚があります」
――ストイックに鍛錬されているイメージがありますが、ふだんはどうお過ごしなのでしょう?
「自分に足らないものは観て聴いて補うしかないので、まずはイメージトレーニングをしながら、必要があれば体型を変えたりもします。はまったらとことんやるタイプなんですよ。そのいっぽうであれもやりたい、これもやりたいとも思うので、広く浅くという面もあります。その中で、今はミュージカルに足を踏み入れたところで、役者をやっていると時代も人物も、伝える内容もそれぞれで、普通に生きていたら経験できないことだし、それが自分の音楽づくりに生かされたりもします。やってて良かったと思える。だからこそ、これからもっといろんな役を演じてみたいなと思います」
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落ち着いた低音で率直に語る加藤さん。大人の男の色気がふんぷんの彼に、野暮を承知で「色っぽいと言われませんか?」と尋ねてみると、「たまにありますけれど、自分では分からないですね。でも、有難いです。言われて初めて気づくことってあると思うし、小池さんや他の演出家の方々もそれを見たうえで演出をつけて下さっていると思うので、そこは自分の武器にすべきだと思います」と、いたって客観的なレスポンスが。そのクールさの中に秘めたミュージカルへの熱い思いが、大劇場でさえ立ちこめる、彼の濃厚なオーラの源なのでしょう。2本の大作に取り組む2015年は、加藤さんにとって大きな飛躍の年となりそうです。
*公演情報*
『タイタニック』3月14~29日=Bunkamuraシアターコクーン、4月1~5日=シアター・ドラマシティ
『ボンベイドリームス』1月31日~2月8日=東京国際フォーラムホールC 2月14~15日=梅田芸術劇場メインホール
*次頁で『タイタニック』観劇レポートを追記しました!