世界遺産「イエス生誕の地:ベツレヘムの聖誕教会と巡礼路」
聖誕教会の地下に設置された14の角を持つ銀の星。ここでイエスが産まれたと伝えられる
一方で、付近ではイスラエルとパレスチナの争いが止まず、世界遺産への登録もアメリカとイスラエルの反対に逆らってなされた。今回はそんなパレスチナの世界遺産「イエス生誕の地:ベツレヘムの聖誕教会と巡礼路」を紹介する。
世界最古の現役石造教会、ベツレヘムの聖誕教会
聖誕教会の外壁。11世紀、十字軍がイスラム教徒の手からエルサレムやベツレヘムを奪還し、堅固な外壁を設置した
聖誕教会の14芒星。イエス生誕の地は諸説あり、イエスが幼少時代をすごしたイスラエルのナザレを推す人もいる
エルサレムにある神や天使が降臨した岩(岩のドーム)、ソロモン王が築いた伝説のユダヤ神殿跡(嘆きの壁)、イエスが最後の晩餐のあと祈りを捧げた庭園(ゲッセマネ)、イエスが殺された丘(聖墳墓教会)等々。
ベツレヘムにはイエスが生まれた場所(聖誕教会)、イエス誕生後、王の命令で殺害の危機にあったイエスを天使が逃した場所(ミルク・グロット)なんてところもある。
聖誕教会の入口、「謙虚の門」。神に対する謙遜を示すため、あるいは十字軍が敵の侵入を防ぐために小さな門にしたとも
いつも思うことだが、聖地にはすべての人間に通じる何かがある。人々の純粋な思いが自分の心の奥底にあるものと共鳴するからなのか、信者でなくても涙が出るほどの感動を覚えるのだ。
神の奇跡の土地だから聖地なのか、長い歴史と多くの人々の思いが聖地を生み出すのか。いずれにせよ間違いなく聖誕教会は世界随一の聖地なのだ。
イエスの誕生神話とクリスマス
ボッティチェリ「神秘の降誕」1501年、ロンドン・ナショナルギャラリー。イエス誕生の瞬間を描いている
アンジェリコ「受胎告知」1426年、プラド美術館
ある日、ヨセフの婚約者・マリアのもとに天使・ガブリエルが現れて、彼女が処女のまま男の子を身ごもったことを告げる(受胎告知)。そしてその子が神の子であり、イエスという名をつけて育てることをふたりに指図する。
ヨセフとマリアはローマ皇帝の命令で必要になった住民登録のために、かつてダビデ王が生まれたユダヤ人の街・ベツレヘムを訪れる。ユダヤ人の間に伝わる伝説では、このベツレヘムで救世主=キリストが生まれるとされていた。
ジャン・フーケ「三賢者の礼拝」1453年、コンデ美術館。空にベツレヘムの星が見える
同じ頃、中東に住む三人の賢者(東方の三博士)のもとに天使が現れて、救世主が産まれたことを告げる。三人はベツレヘムの上に輝く星を目印に家畜小屋を訪れてイエスを参拝し、黄金・乳香・没薬の贈り物を捧げたという。紀元前7~前4年頃のお話だ。
これがクリスマスの起源であり、クリスマス・ツリーの上に飾る「ベツレヘムの星」の由来だ。なお、上の神話は福音書や教派によって内容が異なっており、たとえばイエスの誕生日についても12月25日だけでなく数多くの説がある。