労務管理/給与規定・賃金規定の基礎知識

みなし労働時間制の導入で気をつけるポイント

労働者を使用する者は、原則として始業終業時間をきめ、労働者に通知しなければなりません。しかし研究開発や、デザインなど専門的な職種では、あらかじめ取り決めた時間を働いたものとみなし、実際の終業時間や遂行方法を、労働者に委ねる裁量労働制が認められています。今回は、裁量労働制の内容や導入にあたっての注意点などをお伝えします。

渋田 貴正

執筆者:渋田 貴正

企業経営のサポートガイド

裁量労働制とは?

裁量労働制

裁量労働制を導入する前に、制度の内容を理解しましょう。

裁量労働制は、みなし労働時間制の一つの形態として労働基準法に定められています。労働基準法ではみなし労働時間制として次の3つを規定しています。

1.事業場外みなし労働時間制
2.専門業務型裁量労働制
3.企画業務型裁量労働制

このうち、事業場外みなし労働時間制は営業職など、外出が中心で労働時間の管理が困難な職種への導入が想定されています。直行直帰のように、労働時間が正確に把握できない場合にあらかじめ定めた時間労働したものとみなす制度であり、始業終業時は会社に戻ってくるといった場合や、業務終了後に上司に詳細な報告が必要となるようなケースでは導入できません。

これに対して、専門業務型裁量労働制と企画業務型裁量労働制は労働時間の管理自体は可能な場合でも、業務の効率性などの面から、労働時間の管理をすることが適切でない職種が対象です。導入できる職種は法定されていて、どの労働者にも導入できるわけではありません。例としては、専門業務型裁量労働制は、商品の研究開発や、プログラマーなどスキルが重視される専門的な職種に対して導入できます。企画業務型裁量労働制は経営企画などの非定型的な業務やプロジェクト単位で動くような業務を行う労働者に対して導入できます。いずれも労働者独自の判断で動くほうが業務上都合の良い職種です。

みなし労働時間制導入にあたって注意すること

事業場外のみなし労働制にしても、裁量労働制にしても、みなし労働を導入できる職種に共通していえることは、成果が重視されるということです。営業や研究開発などは成果を出してなんぼの職種です。しかしここで理解しておかなければならないのは、みなし労働時間制であっても、残業代や、深夜・休日手当は支給する必要があるということです。 

まず、みなし労働時間制を導入する場合には、1日当たりの労働したものとみなす時間を労働基準監督署に届け出る必要があります。みなす時間を9時間と届け出れば、法定の8時間を超える分については残業代の支給対象となります。この場合は、月の所定労働日数が22日であれば、最低でも22時間分のみなし残業代を、固定残業手当などの名目で支給する必要があります。実務上は、余裕を持たせて30時間分など大目にするケースも多くあります。また、休日労働や午後10時以降の深夜労働を行った場合は、基本給やみなし残業代とは別途に休日手当や深夜労働手当を支払う必要があります。

主体的に動ける労働者が求められる時代に

サービス産業の発展により、製造業のようにラインに合わせて労働時間を管理し給与に反映できた職種だけでなく、必ずしも労働時間と成果が結びつかない職種が増えました。このことが一層みなし労働時間制の導入の動きを加速させ、今後もこの分野は導入を増やす方向に進んでいくことが予想されます。

例えば、企画業務型裁量労働制は、現在は、本社や支店などの事業所ごとに労働基準監督署に届け出ることになっていますが、本社で一括届出することを可能にしたり、労働時間状況の報告義務を緩和したりするなど導入しやすくする方向で検討が行われています。

また、ここ数年は、ホワイトカラーエグゼンプションの導入も議論されています。ホワイトカラーエグゼンプションとは、管理部門などの現場以外の総合職、いわゆるホワイトカラーを対象に、始業、終業時間などの労働時間の管理や、1日8時間を超える分の残業代をなくして、完全に労働者の裁量で働く形です。みなし労働時間制は一定時間働いたものとみなして、残業代も支給されますが、ホワイトカラーエグゼンプションはそうしたみなし労働時間もなくし、労働時間ではなく、やった仕事に対して給料を支給する制度であり、裁量労働制と比べ、より労働者の裁量度合を強くした制度といえます。この制度は、残業代の支払いをなくすことで労働の効率性が高められるといわれる一方で、過剰労働を助長するなどの意見もあり、現在も議論中です。

ある日いきなり残業代が支給されなくなるといった急激な変化はおそらくないと考えられます。しかし、こうした裁量労働制の要件緩和や、ホワイトカラーエグゼンプションの議論からわかるように、今後ますます労働者が自ら仕事の進め方や時間を主体的にマネジメントしていく能力が求められるようになっていく時代が遠からず訪れるでしょう。
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