絵本/クリスマスの絵本

ノスタルジーあふれる『クリスマスのふしぎなはこ』

果てしなく遠いところから少しずつ我が家に近づいてくるサンタクロースの様子を見ることができる『クリスマスのふしぎなはこ』。クリスマスの朝を心待ちにする小さな子の気持ちを、大人にもノスタルジーあふれる世界で描く素朴な絵本は、大人たちからもたくさんの共感を得ています。

執筆者:千葉 美奈子

 サンタさんの動向が分かる!? 『クリスマスのふしぎなはこ』

クリスマスの前日に、小さな男の子が縁の下で見つけた小さな箱。サンタさんがやってくるのを心待ちにしている男の子は、箱の中をのぞいて目を見張ります。大きな袋をだんろの脇に置いて、ベッドでスヤスヤ眠っているサンタさんの姿が見えたのですから、どれほどの驚きだったことでしょう。サンタさんはちゃんと起きてくれるかな? ぼくの町にやってきてくれるかな? 「クリスマスのふしぎなはこ」を大人に気づかれないように度々のぞきにいき、サンタさんの動向を胸を高まらせながら見守る男の子に気持ちを重ねて、読み手も一緒にワクワクしてしまうことでしょう。


 

子どもの頃に味わったあの思い

昭和の香りが漂うノスタルジックな絵は、大人の心を子どもの頃の心に引き戻してくれることでしょう。おうちの人は家事や仕事で忙しいけれど、子どもの心はクリスマスとサンタさんのことでいっぱい。そんな1日は、何だかとても長く感じるものです。男の子に「サンタさん、もうしゅっぱつしたかな」「サンタさん、もうそりにのって はしってるかなあ」などと問いかけられるたびに、「そうねえ」「そうさなあ」と必ずいったん受け止めて、小さな子の想像力がどんどん広がる温かい答えをくれるお母さんやお父さん。それによって、男の子がのぞく小さな箱の中の世界がはてしなく広がっていくようです。


クリスマスを待ちわびる思い

最近は年間を通して季節の様々なイベントが多く、その都度、地域のイベントや町中の飾りつけなどで盛り上がりも見られるため、クリスマスは今の子どもたちの親世代の時ほど特別な存在ではないのかもしれないと感じることもあります。それでも、クリスマスを、自分の誕生日に次ぐ特別な存在として待ちわびている子が多いことは変わらないでしょう。

子育ての中で、どこか遠い国からトナカイに乗ってやってくる存在を楽しみにしたり、サンタさんについて尋ねてきたりする我が子を見ていると、「いつまでこんな会話ができるのかな」と思うのも親の心。でも、子どもって親が思っているよりも長く、サンタさんがやってくるというストーリーを大切にしているものです。どこかの時点で、サンタクロースの存在について、ただただ待っていた幼い頃とは違ってあれこれ考えるようになるものですが、それでも、この絵本に出てくるようなサンタクロースが少しずつ近づいてくるイメージは、成長して、そしてやがて大人になっても、いつまでも残り続けるのではないでしょうか。

短いストーリーの中で、大人にも不思議な余韻を残す『クリスマスのふしぎなはこ』。幼児だけでなく小学生のお子さんとも楽しめると思います。クリスマスの近づく季節、我が子にサンタさんについて聞かれたら、こんな会話や時間を楽しみたいなと、箱の中のサンタさんの現在位置を見て布団にもぐりこんでぎゅっと目をつむった男の子の表情を見ながら、考えました。
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