将棋/将棋マンガレビュー

将棋漫画「マサルの一手!」は水先案内船である(2ページ目)

漫画は時として人生の水先案内船となる。サッカーのジダン、野球のイチロー、バレーの大林。皆、漫画に案内されて世界へ船を進めた。今回、紹介する「マサルの一手!」もまさしく水先案内となりうる漫画である。その魅力を分析ガイドする。

有田 英樹

執筆者:有田 英樹

将棋ガイド

森内2冠王の説得力

森内三冠の説得力

森内三冠の説得力

この作品の監修は森内俊之(過去記事)である。彼の監修ならば、説得力という点において、おつりが来るほどだ。だが、ひょっとして名ばかりの監修ということだってあり得る。どうなのだろうか、中身を見ていこう。

まず、目次に注目してみよう。通常の作品であれば、第一話……、第二話……と列記されていくが、この作品はこうなっている。

第一局 屈辱の八枚落ち
第二局 鬼ごろし戦法の巻
第三局 初めての香落ち対局

いかがであろうか。目次から、マニアをうならせるに十分な演出だ。

またポイントとなる対局場面では、戦法や囲いなどの解説が出てくる。しかも局面つきである。棋譜も掲載されているが、それが、実に程よい「さじ加減」なのだ。丁寧だが難しすぎぬように配慮されている。小学5年生にとっては、まさに、かゆいところに手が届くが、けっしてかきむしらない、そんな心地よさを味わうことのできる作品だ。さらに「マサルの将棋道場」というコーナーが所々に掲載されている。いわゆる誌上将棋教室的なコーナーである。こちらは、入門期の子ども達にもなじみやすいように簡単な言葉で描かれている。

これは、よほどの専門家抜きには考えられない作品だ。想像するに、森内は誠実に、この作品の監修をつとめたに違いない。そして、彼自身、この作品を楽しんだのではないか。そんな息づかいが感じられる作品である。ちなみに第一巻発行当時の森内は「九段」である。要するに無冠に甘んじていた時期だ。ところが第二巻では「三冠」となっている。この時の森内は棋界の2大タイトルである「名人」と「竜王」だけでなく「王将」までも奪取するというエンジン全開、フルスロットル。その森内と主人公のマサルが強くなっていく姿が、どんぴしゃりと重なっている。このように、ガイドが重要な要素としてあげた「ファンタジー」と「スペシャリティー」のコラボが読者に届けられているのである。

スタート地点を共有させる誘導力

共感を呼ぶサッカー少年/イメージ

共感を呼ぶサッカー少年/イメージ

この作品のスタートを飾る吹き出しの中身は、主人公マサルのこんな言葉である。

「おーい、みんな、サッカーやろうぜ!」

これは、ガイドの引用誤りではない。マサルは片手にサッカーボールを抱えクラスのみんなを誘っている。けっして「まず将棋ありき」なのではない。マサルはJリーグ人気大爆発を支えた、当時の男の子のごく一般的な姿を体現しているのだ。つまり、読者の側からすれば「あっ、僕と同じだ」となる。そして、マサルは将棋の対局をサッカーに見立てて、徐々に理解していく。このプロセスは、多くの男の子達を誘引するに違いない。サッカーも面白いけれど、将棋も面白いかも……。なるほど将棋とサッカーって似てるな。そんな思いを抱かせるのだ。

では、男の子のための漫画なのか。実は、ここにも設定の妙が光っている。最初に登場するマサルのライバルは、将棋の強い女の子、綾乃なのである。将棋って女の子でもできるのか。じゃあ、私にもできるかも……。そんな思いを女の子に抱かせるのである。スタートから男の子と女の子を、ペアで誘導していくのだ。心憎いまでの誘導力である。

さらに現実とコラボする水先案内船

「マサルの一手!」には、さらに特筆すべき点がある。それは、現実の将棋大会とのコラボである。なんと、2003年、この作品にちなんだ子ども将棋大会が開始されたのだ。その名は「小学館学年誌杯争奪全国小学生将棋大会」。小学館と日本将棋連盟によって開催された小学生を対象とする将棋大会だ。大会委員長は、もちろん監修である森内俊之。会場は、マサルや綾乃に魅了された、たくさんの子ども達で熱気ムンムンとなった。

繰り返す。この作品は紛う事なき水先案内船である。ぜひ、ご一読を願いたい。

実は村川は他の将棋漫画も描いている。これについては、また、別の機会にガイドしたい。
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追記

「敬称に関して」

文中における個人名の敬称について、ガイドは下記のように考えています。
(1)プロ棋士の方の活動は公的であると考え、敬称を略させていただきます。ただし、ガイドが棋士としての行為外の活動だと考えた場合には敬称をつけさせていただきます。
(2)アマ棋士の方には敬称をつけさせていただきます。
(3)その他の方々も職業的公人であると考えた場合は敬称を略させていただきます。

「文中の記述に関して」
(1)文中の記述は、すべて記事の初公開時を現時点としています。


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