絵本

宝物のような田舎での思い出『やまのおみやげ』

初めて田舎のおばあちゃんの家に1人で泊まりにいったけんじくんの、宝物のような体験を描いた『やまのおみやげ』。美しく色づいた秋深い里山やおばあちゃんの家での時間は、けんじくんにどんなおみやげをくれたのでしょうか。誰にもこんな忘れがたい記憶があるのではないかと思う郷愁を誘われる光景を、色鮮やかに爽やかに描きます。

執筆者:千葉 美奈子

初めての1人旅で持ち帰った『やまのおみやげ』

主人公のけんじくんは、秋に包まれた田舎のおばあちゃんのうちに泊まりにいくため、電車に乗っています。いつもはお父さんやお母さんと一緒だけれど、今回は初めての1人旅。「自分もそんな経験をしたことがある!」とか、「そろそろ子どもにそんな体験をさせてみたいな」という方もいるかもしれませんね。けんじくんは数日間の田舎での滞在で、輝かしい宝物のような思い出をたくさん持ち帰りました。そんなすてきなおみやげを、絵本『やまのおみやげ』の中で探してみましょう。

 

 

自然と呼応する田舎の暮らし、遊び

お話はひたすら、けんじくんが体験したこと、見た光景の描写で進んでいきます。村を挙げての豊作を祝うお祭り、村の人たちが冬支度をする姿、けんじくんが「お母さんのきもののすそもようにそっくり」と感じた里山の美しい紅葉に、遠い山の頭にかぶる初雪。すべてが、自然や季節と結びついています。けんじくんはいとこたちと一緒に、夢中で野山を駆け回ります。体験したこと、見たこと、食べたもの……。たくさんの思い出が強烈に胸に刻まれ、町に帰る日を迎えたけんじくんは、とても切なそうです。

子どもの頃に田舎に出かけてこんな体験をしたことがある人、生まれ育った環境そのものがこうだったという人、そして、こういう体験や訪れる田舎を持ち合わせていない人もいると思います。それでも、誰の心の中にも懐かしい忘れがたい、自然の景色というものがあるのではないでしょうか。それは、豊かな自然に囲まれた景色かもしれないし、近所に立っていた木、咲いていた花かもしれません。


変わらぬ景色守りたい

都会はあっという間にその姿を変えていきます。子どもの頃には遠くまで見渡せた景色の中には、やがて色々な建物が建ち、かつて見渡せた景色は思い出の中だけに生きていることも。一方、数年、十数年、数十年たって訪れても、ほとんど景色が変わらない土地もあります。大人はどうしても「豊かさ」という言葉の奥深さ、難しさを考えてしまいがちですが、子どもはもっと純粋な憧れをもって、けんじくんと一緒に絵本の中の体験を楽しむことでしょう。

作者の原田泰治さんの絵や文章の中には、自然の営みが作り出す変わらぬ景色、その中で暮らす人々の営みへの愛情があふれています。懐かしい風景を持つ大人の心に特に響く絵本ですが、ぜひ、小学校に上がる前後ぐらいからのお子さんと読んで、忘れがたい大好きな景色に思いを馳せるきっかけにもしていただけたらいいなあと思います。育ちゆく中で刻まれる原風景は、子どもの心の中に静かに強く生き続けるものです。
 
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