ローマは一日にしてならず。ドンキホーテも語ったとされるこの言葉を、今年ほど実感したことはない。手前味噌のようになるが、私が住む大分県は、本年、驚くべき快挙を成し遂げた。いや、もちろん大分には史上最強アマと呼ばれる早咲誠和氏(過去記事)がいる。彼の活躍は、もはや当然のことのようになっているが、今回ガイドする実績は氏のものではない。列記しよう。
 
附属小が全国優勝

附属小が全国優勝

・小学生(大分大学教育学部附属小学校)が文部科学大臣杯小学生将棋団体戦で全国優勝。
・高校生(大分県立豊府高校将棋部)が、全国高等学校将棋選手権大会・団体戦で全国3位。
・シルバーのチームが、全国健康福祉祭、将棋団体の部で全国3位。

 

大分県奇跡の棋績(きせき)

附属小と豊府高校が県への報告

附属小と豊府高校が県への報告

年齢を区切っての団体戦、主な全国大会は4部門ある。小学生、中学生、高校生、シルバーだ。その4つのうち、なんと3部門で、優勝を含む全国3位以内を獲得したのである。
 
ここで注目していただきたいのが、この実績が団体戦においてなされたことであるという点だ。ある個人が成し遂げた記録なのではない。複数のメンバーによる勝利が必要となる団体戦での成果は個々の棋力、チームワークだけでなく、将棋環境の広さが求められるものだ。多世代にわたる将棋文化の大きな広がりが必要不可欠なのである。

はたして、この偉業は、いかにして生まれたのか。「大分奇跡の棋績(将棋での実績)」が生まれた背景を地元からガイドする。

会報というDNA

20年以上の歴史を持つ会報

20年以上の歴史を持つ会報

ご覧いただきたい。このA4版の小冊子は大分県将棋連合会(以下、県将棋連合会)が発行する会報である。その名は「豊棋(ほうき)」。大分県は、かつて「豊後(ぶんご)」と呼ばれていた。その「豊」と「将棋」から「将棋を通して豊かな生活を」の願いを込めて命名された「豊棋」なのである。県将棋連合会は、県内の将棋を愛する人たちで構成された団体だ。この「豊棋」は平均で月に2度、原則として会員を対象に配布されている物だが、その号数に注目いただきたい。

一例を挙げよう、平成26年9月で「508号」である。これが途方もない数字であることがおわかりいただけるだろうか。期間に直せば、なんと22年以上も発行され続けているのである。22年……。おぎゃあと生まれた子が成人式を終えるよりも長い期間である。また、22年前と言えば、Jリーグさえ存在していない頃だ。こんな長期間にわたり、県下の将棋ファンに送り続けられた会報には、将棋大会のお知らせ、結果報告、棋譜解説、次の一手クイズなどが写真入りで紹介されている。さらに、「豊棋」の前身となる会報は昭和の時代から発行されているというから驚きである。

大分県独自の、この労力のすさまじさが、奇跡の原動力になったことは間違いない。シルバー世代は、指し盛りと言われる40代から、この会報に接してきた。高校生達にとっては生まれた時から、この会報が存在していたのだ。まさしく「豊棋」は大分県の将棋遺伝子を脈々と伝達するDNAなのである。ネット環境が構築されてからは、ネット上でも閲覧できるようになった。ブログなども含め、時代に応じたパワーアップも着実に行われているのだ。さらに次の言葉をご覧いただきたい。

大会というDNA

「大分は日本一将棋大会の多い県です」

左:早咲誠和氏、右:七蔵司仁紀氏(豊棋発行者)

左:早咲誠和氏、右:七蔵司仁紀氏(豊棋発行者)

この言葉、前出の早咲氏によるものだ。氏はその経歴から、全国の将棋関係者にネットワークを持っている。つまり将棋情報が集中する核となる人物なのである。その氏が確信を持って語る言葉なのだ。実際に、大分県では一般大会が少なくとも毎月3回は行われている。これが定例化しているのだ。2回が県将棋連合会の主催、そして、1回が同様の歴史を持つアマチュア将棋連盟大分県支部(以下、アマ連大分県支部)の主催である。一度でも大会を開催したことがある方なら、この労力のすさまじさもおわかりだろう。これにスポット的な臨時大会が加わる。つまり、大分県では将棋大会が毎週行われているのだ。県将棋連合会とアマ連大分県支部の情熱が可能にした開催数としか言いようがない。これらの大会は県外の将棋ファンにもオープン化されており、県内外から100名を超す参加者が一堂に会することもある。そして、この歴史も大変に古いものだ。過去記事「鋳鉄(ちゅうてつ)の扉を開けた棋士~杉崎里子」をご覧いただきたい。大会そのものもDNAの役割を果たしているのだ。

 

DNAの到達点、子どもたち

子ども達でにぎわう大会

子ども達でにぎわう大会

そして、そんな熱意ある環境の中だからこそ、ガイドが主催する「大分県子ども将棋ネット」(関連サイト)も生まれることができたのである。県子ども将棋ネットは毎月「定例子ども大会」を開催しているが、年間延べ人数では600人を超える子ども達が熱戦を繰り広げている。もちろん、日本一になった附属小の子ども達も、この大会で腕を磨いてきたメンバーだ。このように将棋遺伝子を受け取る最終点となるべき子ども達の活動も活発化しているのだ。

 

世代交流というDNA

世代を超えた交流

世代を超えた交流

大会では、シルバー世代が孫の世代である子ども達に将棋を手ほどきする姿もめずらしくはない。まさしく将棋遺伝子が手渡しで受け継がれていく瞬間である。この瞬間を熟成してきたのが、これまでガイドしてきた県将棋連合会の長きにわたる熱意だ。「大分県奇跡の棋績」は、やはり、一日にしてならずなのである。

 

DNAのハイブリッド

もちろん大分県将棋界だけが、遺伝子を残している訳ではない。それぞれの県がさまざまな形のDNAを持ち、独自の活動を行っていることだろう。私はオールアバウト将棋ガイドとして、そんな様々なDNAを紹介、交流、さらにはハイブリッド化し、将棋文化の普及継承、そして発展の一助になりたいと願っている。どうか、全国の愛棋家の皆さん、私に貴県での取り組みに関する情報を送っていただきたい。そんな願いをもって、この記事を了としたい。お読みいただき、ありがとうございました。


(了)

 

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追記

「敬称に関して」

文中における個人名の敬称について、ガイドは下記のように考えています。
(1)プロ棋士の方の活動は公的であると考え、敬称を略させていただきます。ただし、ガイドが棋士としての行為外の活動だと考えた場合には敬称をつけさせていただきます。
(2)アマ棋士の方には敬称をつけさせていただきます。
(3)その他の方々も職業的公人であると考えた場合は敬称を略させていただきます。
 
「文中の記述に関して」
(1)文中の記述は、すべて記事公開時を現時点としています。







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