絵本

怖いのに子どもに魅力たっぷりの昔話『ねんどぼうや』

おじいさんとおばあさんの思いが詰まってできあがった『ねんどぼうや』は、実はとんでもないおばけ。スリルに満ちた展開と臨場感のある美しい絵に、読み手は引き込まれてしまいます。怖いけど子どもの心をひきつけるねんどぼうやの世界、ちょっと覗いてみませんか!?

執筆者:千葉 美奈子

スリルたっぷりの昔話『ねんどぼうや』

自分の子どもたちが成長して巣立っていったおじいさんとおばあさんが、ねんどをこねて作り上げた小さなかわいいねんどぼうや。お話序盤のかわいいねんどぼうやの姿に微笑みながらどんなお話の展開なのだろうと思っていると、驚くべきとんでもない方向に進んでいきます。

予想を裏切るスリルある展開。正直、怖いと感じるお子さんも大人も少なくないと思います。しかし、そのスリルに子どもはひきつけられるようです。ちょっと複雑な思いを残しながらも、最後は英雄的存在が登場してハッピーエンドに。ストーリーから何かを得た気持ちになる絵本とは言い難いですが、子どものドキドキ感や想像力を大いに刺激する絵本のようです。



村中を食い尽くしていくねんどぼうや

優しげな表情のおじいさんが丁寧にねんどをこねて完成し、我が子たちが巣立った寂しさを埋めることができるとおばあさんが期待した「ねんどぼうや」。ミルクを飲みまくり、パンを食べまくっているあたりまではまだかわいげがあったのですが、急激に大きくなり、表情も鬼気迫ってきたねんどぼうやの様子には、読み手も不穏な空気を感じます。その予感の通り、ねんどぼうやはかわいらしい存在などではなく、自分を生み出したおじいさんやおばあさん、そして、小さな村中のあらゆるものを食い尽くしていこうとするおばけなのでした。

その様子はとても怖いけれど、美しい村の様子や臨場感がある絵に引き込まれ、ページをめくらずにはいられません。正に息を飲みながら、真剣にお話の展開を追う子がいることでしょう。


スリルと安堵のはてに残るものは?

不安がピークに達したころに、英雄的存在が登場して村には笑顔があふれます。でも、ちょっと大きな子や大人には、納得しない気持ちも残るでしょう。優しいおじいさんとおばあさんの行動が小さな村にとてつもない騒動を引き起こすことになり、おじいさんやおばあさんの気持ちは? ねんどぼうやは何を伝えたかったの?

その答えは見つからないかもしれません。有名な昔話にも理不尽な展開はよくあるものですが、ねんどぼうやのお話がとりわけ刺激的なのは、その新鮮な存在と、普段触れる絵本には、絵本だったらきっとこうなるだろうという予定調和の流れが多いからかもしれません。

とても怖がりなタイプのお子さんには刺激が強いかも……。しかし、古くから言い伝えられてきたお話の中でスリルや安堵を味わいながら、予想通りの展開へのイメージを破る経験をすることができる魅力的な絵本だと思います。
 
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