世界遺産/インドの世界遺産

カジュラホの建造物群/インド(3ページ目)

ヒンドゥー寺院の一面に描かれた強烈なセックス像ミトゥナと、女性美を強調した優美な女神像アプサラ。今回は愛と性に神を見た月の王国チャンデッラが生み出したインドの世界遺産「カジュラホの建造物群」を紹介する。

長谷川 大

執筆者:長谷川 大

世界遺産ガイド

カジュラホの歴史

ヴィシュヌ神に捧げられたラクシュマナ寺院。トウモロコシのような塔をシカラといい、シカラを並べることで聖山カイラスを中心に連なるヒマラヤ山脈を描いた ©牧哲雄

ヴィシュヌ神に捧げられたラクシュマナ寺院。トウモロコシのような塔をシカラといい、シカラを並べることで聖山カイラスを中心に連なるヒマラヤ山脈を描いた ©牧哲雄

ヨーロッパで民族大移動が起こった3世紀以降、インドにも様々な民族が押し寄せた。多くの血が混ざって生まれたのがラージプートの人々だ。9世紀、カジュラ(ナツメヤシ)の地にやってきたラージプートの一派は月の神チャンデッラを名乗り、チャンデッラ朝を打ち立てた。

ヴァラーハ寺院に祀られているヴィシュヌ神の化神ヴァラーハ(猪)像

ヴァラーハ寺院に祀られているヴィシュヌ神の化神ヴァラーハ(猪)像

古代インドでは宗教の違いはあまり意味を持たなかった。地母神のような各地の信仰がバラモン教によって統一され、やがてヒンドゥー教へ発展した。もともと多神教であるからヒンドゥー教は仏教やバラモン教の神や教えをも取り込んで、あるいは取り込まれて、多種多様な信仰になっていった。カジュラホ東群にはジャイナ教の寺院も見られるが、基本的にはヒンドゥー教の寺院と変わりはない。

最盛期には85もの寺院を建築し、寺院は金で覆われて光り輝いていたといわれている。しかし14世紀、イスラム教徒が進出してくると、偶像崇拝を嫌って多くの寺院が取り壊され、本尊も破壊されてしまった。

その後寺院群は忘れ去られて熱帯雨林に飲み込まれてしまった。発見されたのはなんと1838年、イギリスのバート大尉による。残されていた25の寺院は第二次大戦後に急速に復元され、現在のような形になっている。

 

カジュラホの見所と現実のインド

水たまりでくつろぐ水牛と、その背中に乗るサギのような鳥、そして水面に映るシカラ

水たまりでくつろぐ水牛と、その背中に乗るサギのような鳥、そして水面に映るシカラ

中央の像は象の頭を持つガネーシャ神。インドの神々の由来はぜひ自分で調べてほしい。これがおもしろいのだ!

中央の像は象の頭を持つガネーシャ神。インドの神々の由来はぜひ自分で調べてほしい。これがおもしろいのだ!

カジュラホはなんといっても散歩がおもしろい。寺院群はカジュラホの街のメイン通りに位置する西群がメインで、そこから1kmほど歩いた場所にある東群やさらに500mほど南下した南群に分けられる。

大きな寺院やミトゥナはほとんど西群の寺院群で満喫できる。神々のセクシーな像は一体として同じものがないといわれるほど多彩なので、ゆっくり見てほしい。カジュラホで重要なのは空気観。下手に現在の価値観で見るとその真髄はわからないし、寺院の意味にとらわれると本当に彼らが表現したかったものが見えなくなる。チャンデッラの人々は、この不思議な空気観を表現したくて寺院を造り上げた。文化遺産すべてにいえることだが、建築様式や意味性などはそのための手段にすぎないのだ。

 

ハイライトは西群だが、ぜひ自転車でも借りて東群と南群にも足を伸ばしてほしい。東群に多く見られるジャイナ教の寺院がおもしろいのはもちろんだが、途中の水田風景や水牛たちが遊ぶ川の景色がすばらしい。そしてそれ以上に注目すべきは村。法的には存在しないといわれるカースト制度だが、人々の家が居住区によってまったく異なる姿がよくわかる。

カジュラホのある民家

カジュラホのある民家

たとえば最下層のカーストにあたるシュードラや不可触民の人々は、土壁に土の屋根に土の床。地面の土を積み上げて四角く囲っただけの家で暮らしている。壁の高さも制限されているため、身をかがめないと入れない。そんな家が並んでいる。一方カジュラホの街でホテルを経営しているのはたいていバラモンかクシャトリヤだ。この身分制度は絶対で、職業も生まれ落ちた途端家系で決められている。

ヒンドゥーの身分制度に苦しみながら、人びとはなぜヒンドゥーの神々に祈りを捧げるのか? そんな散歩や、人々との出会いを通して、とても大切なものに気づくことができるかもしれない。
  • 前のページへ
  • 1
  • 2
  • 3
  • 4
  • 次のページへ

あわせて読みたい

あなたにオススメ

    表示について

    カテゴリー一覧

    All Aboutサービス・メディア

    All About公式SNS
    日々の生活や仕事を楽しむための情報を毎日お届けします。
    公式SNS一覧
    © All About, Inc. All rights reserved. 掲載の記事・写真・イラストなど、すべてのコンテンツの無断複写・転載・公衆送信等を禁じます