世界農業遺産、能登の食材をシンプルに

華やかな経歴もなく、ましてやレストランでの調理経験もないシェフが営む小さなビストロが連日大繁盛だ。私はこれまで錯覚をしていたのかもしれない。料理長や支配人の経歴とか実績とかそういった過去をまことしやかに意識していたことを。
ビストロマルゼン

マルゼンのマルは月を表しているのだろうか。

オーナーシェフである岩田朱理氏は能登は輪島の出身。獲れたての魚や世界農業遺産にも指定されている豊かな農地で育まれる食材に囲まれて育ち、今も忠実に「素材」の多くを能登から日本橋へ取り寄せる。そしてその素材をできうる範囲でシンプルに「料理」に仕上げている。
ビストロマルゼン

カウンターは詰めて7席。奥にテーブル席がある。

ちなみに能登の素材は野菜肉問わず、非常にクオリティが高い。オーガニックな生産者も多く、そして雪も比較的少ないため、冬でも多くの野菜が生産され、安定した供給ができる地域でもある。

それにしても当日予約でカウンター1席空いていたのは幸運だった。

メニューも能登の素材を使ったメニューが並ぶ。前菜はほとんどが650円~850円とリーズナブル。野菜、鶏、豚、そしてレアな能登牛。能登牛が2600円というとおそらく原価率50%は超えているだろう。しかしシェフはそんなことは気にしていないだろう。自然なこだわりをお客に押し付けることなく、カウンターの中で調理をし、そして客とのショートトークを楽しんでいる。きっと「ああ、この仕事って楽しい」と心からそう思っているに違いない。