動物園御一行様の珍道中『どうぶつたちのピクニック』
悪い風邪にかかって元気がない動物園の動物たち。ドクターに運動不足が一因と指摘された飼育員のマスターさんは、元気になった動物たちを海に連れて行くことにしました。貸切バスを仕立てて楽しく海で遊んだまではよかったのですが、その後立ち寄った遊園地のあまりの楽しさに、みんなマスターさんのいうことを聞かなくなってしまいます。おやおや、動物たちはどこかのおうちの子どもたちにそっくりですね。そして困り果てるマスターさんの姿はまるで子育て中のお父さん・お母さんのようです。さて、この難関をマスターさんはどうやって切り抜けるのでしょうか?
遊びの世界に没頭していくマスターさんにご注目!
言うことを聞かない動物たちを連れてなんとか動物園に帰ろうと、マスターさんが放った起死回生の一手は、楽しい時間がいつまでも続いてほしいと願う動物たちの気持ちに寄り添ったとても楽しい方法でした。例えば、付け髭をつけて変装したり、貸切バスにキラキラの装飾を施したりするなんて、私たちには到底思いつきませんよね?いつもいつも動物たちのことを考え、動物たちに愛情を注いでいるマスターさんだからこそ思い付いたそのやり方によって、動物たちだけでなくマスターさん本人も満足できるとびきりの結末を迎えることになりましたが、それは読んでのお楽しみ!
さて、お話を読み終えて振り返ってみると、お話の途中でマスターさんの様子に変化が生まれていることに気付きます。動物たちを無理やり園に連れ帰ろうとしていた時には、うまくいかずに困り果てた表情を浮かべていたマスターさんが、動物たちが喜ぶ方法を考えながらバスをリメイクするあたりから、楽しそうな笑顔を浮かべています。マスターさん自身も知らず知らずのうちに楽しい遊びの世界に没頭していることがわかりますね。
絵本は最良の育児書になることがある!
訳者・舟崎克彦さんは「訳者のことば」の中で、「マスターさんが動物たちの喜びの場を自分から用意することで初めて幸福を分かち合うことができた」と言い、その部分に「エゴイズムを去るところから真の愛情が芽生えるという作者の考えが表れている」と述べています。もちろん、作者のこの考えだけで毎日の子育てが全てうまくいくわけではありませんが、これは子育ての極意の1つと言ってもよい考え方ではないでしょうか。絵本は子どもたちのものとばかり思われがちですが、大人にとっては時に最良の育児書になることがあります。お話の展開や登場人物の会話の1つ1つがそのまま子育てのロール・プレイングになり、思わぬ気付きを得た経験をお持ちの方もいらっしゃることでしょう。絵本の内容が読者の疑似体験として活かされるのは、子どもだけではなく大人にも言えること。その意味で、絵本が育児書として役に立つこともあるというわけです。
でも、もしお子さんに「もう1回読んで!」と言われたら、その時は大人の立場でなくお子さんの立場でお話に入り込んでみませんか? 作者の狙いや大人の思惑とは全く違った楽しさ・面白さが見えてくるはずです。絵本はその時々によって、育児書として、あるいはエンターテイメントとして、色々な読み方ができる……これだから、絵本の読み聞かせはやめられませんね!
【書籍DATA】
アーノルド・ロベル:文/絵 舟崎克彦:訳
価格:907円
出版社:岩波書店
推奨年齢:3歳くらいから
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