ミュージカル/ミュージカル・スペシャルインタビュー

Star Talk vol.17 アダム・クーパー、原点に回帰する(2ページ目)

英国ロイヤルバレエ出身、卓越したダンサーでありながら、ミュージカルでも天性のスター性、「想定外」の歌唱力で着々とキャリアを築いているアダム・クーパーさん。11月にはミュージカル史に燦然と輝く名作『SINGIN’ IN THE RAIN雨に唄えば』で5年ぶりに来日します。*観劇レポートを追記掲載しました!*

松島 まり乃

執筆者:松島 まり乃

ミュージカルガイド

バレエ経験を活かしつつ、ジャンルの垣根を越えて活躍

――アダムさんは子どものころからミュージカルに親しんでいたそうですが、どのように?
『Singin' In The Rain』Photography by Manuel Harlan

『Singin' In The Rain』Photography by Manuel Harlan

「毎週土曜日にテレビでハリウッド映画を放映する番組があって、それが楽しみだったんだ。モノクロのドラマもあったけど、ミュージカルがかかることも多くて、『オクラホマ!』『略奪された七人の花嫁』『トップハット』『オン・ザ・タウン』といった作品が大好きだった。それらに憧れたこともあって、6歳でタップを始めたんだ」

――クラシカルなミュージカルがお好きなのでしょうか。

「30~50年代のミュージカルが大好き。(57年初演の)『ウェストサイド物語』も好きだけど、やはりそれ以前の作品群のほうが好みだな。僕の歌声がそれらに合っているということもあるし、タップとジャズとバレエがミックスされた振付であるという点でも合っていると思う」

――アダムさんは2002年に『オン・ユア・トーズ』でミュージカル・デビューされましたが、その2004年の来日公演では「ロイヤル・バレエの花形ダンサーだったアダムがこんな美声の持ち主だったとは!」と、多くの観客を驚かせました。以前からトレーニングをされていたのですか?

「子どものころ、父が合唱団を主宰していて僕もそこで歌っていたんだ。一人で歌うほうが気持ちいいのにとひそかに思いながらね(笑)。もちろん『オン・ユア・トーズ』への出演が決まって歌のコーチには改めてついたけれど」

――最初のダンスレッスンもタップでしたし、バレエダンサーとして頂点を極めたあなたが後にミュージカルを演じることは、まるで原点回帰であったかのようですね。

「実際そうだと思う。15年前なら、当時僕はまだバレエにどっぷり浸かっていたから、僕がミュージカルに興味があるなんて言おうものなら、人々は笑ったものだった。自分自身、バレエ界にはあまり満足していなかったけど、それでも次のキャリアとしてミュージカルを選ぶことになるとは思っていなかった。でも今、言ってくれたように自分の子供時代を思い返せば、こうなったことには合点がいく。原点に戻ったかのようだ。憧れていたジーン・ケリーやフレッド・アステアの世界に戻って来たんだ。

ただ、今の自分を作る上で、バレエの経験は絶対に欠かせない。バレエはダンサーとしての基礎を作ってくれただけでなく、振付の面白さにも目覚めさせてくれた。自分が今ダンサーであり振付家でもあるのはバレエをやっていたからこそ。それに世界中の素晴らしい劇場でも踊れたし、素晴らしいダンサーたちとも共演できた。いい思い出もたくさん作れたよ」

――ミュージカルをやると決心した時、周囲の反応はいかがでしたか?

「当時はまだバレエダンサーとして踊っていたし、マシュー・ボーンの『白鳥の湖』はじめいろいろな作品に出ていたので、その中の一つという受け止め方でしかなかったと思う。でもびっくりはしたようだよ。僕が歌えるなんて思いもしなかったらしくて。妻でさえ、歌を歌うことは知っていても舞台で披露できるレベルかどうかは知らなかったと思う。いい意味でみんなを驚かせることができて良かったと思うよ」

 ――バレエは“芸術”でありミュージカルは“娯楽”と線引きをする人もいますが、アダムさんの中では抵抗はなかったのですか?


「捉え方は人それぞれでいいんじゃないかな。僕は特に違いは感じない。バレエでも何でも、舞台と言うのは人を楽しませることに変わりはないと思うんだ。唯一の違いは、ミュージカルをやることでより多くの人と触れ合えるということかな。バレエはとても小さな世界だからね。人に考え方を強制することはできないよね。でももしそういう線引きをする人がいたら、僕はそれこそバカバカしいと思う(笑)。

英国のファンの中には、僕がバレエ以外の作品に出演するうち、足が遠のいてしまった人もいるけど、人の顔色を窺ってばかりいたら何もできない。僕としては自分がやってみたいと思うことをやって、それで去る人がいたらそれでいいんだ。一方では新しい出会いもあるよ。ロンドンで『ガイズ&ドールズ』をやったとき、お客さんの中には僕がバレエダンサーだったことを知らなかった人もいたんだ。この作品ではダンサーではなく、シンガー、アクターとして起用されたからね。あの経験は僕にミュージカル俳優としての大きな自信を与えてくれた」

――クラシカルなミュージカルだけでなく、近年のミュージカルには出演されないのですか?

「これまでのところ、08年に『Zorro The Musical』のラモン提督はやったけれど、あとはみないわゆる“名作ミュージカル”だったね。『キャッツ』のミストフェリーズはどうかって? うーん、機会が無かったね。『レ・ミゼラブル』や『オペラ座の怪人』のような、オペラ的な声が求められる作品にはこれからも出ないだろうな。『クレイジー・フォー・ユー』?あれはガーシュインの音楽だから現代の作品という感じはしないけど、でも素晴らしい作品だ。いいね。他にも、現代の作品でワークショップに参加して相性のいいものがあったので、将来的にやることになるかもしれないよ」

――今は人生の充実期かと思いますが、今後のテーマに抱いていらっしゃることはありますか?

「ハッピーに、健康的に生きること。そして家族を大切にしていきたいな」

――お子さんたちもバレエの道に?

「分からないな。娘は最近レッスンを始めて、楽しんでいるようだけど、まだ6歳だからこの先どうなるか。息子はそれより年下なのでまだ始めていない。本人はそれよりサッカー選手とか医師とか科学者になりたいみたいだけど。僕としては稼げる弁護士になってほしい。僕も安心して引退できるよ(笑)」

――アーティストとしては何をやって行きたいですか?

「今までどおりやりたいことをやっていきたい。新しいことにも挑戦して自分をどんどん高めていきたい。そこには怖さもあるけど、演技者として創造的でありたい。そして楽しむこと。自分が楽しめなかったら一生懸命やる意味はないからね」

――大御所振付家のローラン・プティ(11年死去)の晩年にインタビューしたとき、人生の生きがいとは社会に求められること、何歳になっても仕事をオファーされることだとおっしゃっていました。アダムさんは共感されますか?

「僕はちょっと違うかもしれないな。結婚して家族が出来たことで、仕事がすべてではなくなった。仕事は大切ではあるけれど、僕のもう一つの側面、家族も大切だから、僕にとって常に優先すべきものではないんだ」

――では最後に。『雨に唄えば』は昨年ロンドンが閉幕してから1年ぶりとなりますが、今回の日本公演はどう進化しそうですか?
『Singin' In The Rain』Photography by Manuel Harlan

『Singin' In The Rain』Photography by Manuel Harlan

「どうなるかな。今回はキャシー役のキャストが変わるのでまた違ったドンとキャシーの関係が築けそうだ。エイミーという今回の女優はとてもいいアクター、シンガー、ダンサーで、長年知っている。相手役は初めてだけど以前にも共演したことがあるので、楽しみだ。僕の歌も悪くはないし(笑)、全体的にさらに良くなるんじゃないかな。人生がもっと楽しくなるような舞台になるよ。水しぶきはかかるかもしれないけど(笑)」

――今回の会場の東急シアターオーブはもう下見されましたか?

「まだだけど、まだ新しい劇場なんでしょう? どんな感じかな」

――大きいですよ。水しぶきをたてるのが大変そう(笑)。

「任せて!(笑)」

*****
……と、茶目っ気たっぷりに、取材は今回が2度目ということもあってか至極フランクに語ってくれたアダムさん。ロイヤル・バレエ時代からその豊かな表現力とダイナミックなダンスで世界各地のファンを魅了してきた彼ですが、今回はその彼が“原点回帰”し、名作の中の名作と言われる『雨に唄えば』で新たなキャリアを築く姿を観ることが出来ます。

「Singin’ In The Rain」に限らず、ダンスシーンでの彼はどんなステップも普通に呼吸をしているかのように軽々とこなし、目をひきつける点でジーン・ケリーを彷彿。ミュージカルのダンスとはこういうものだという決定版が観られる機会、ぜひお見逃しなく!

*公演情報*『Singin’ In The Rain 雨に唄えば』2014年11月1~24日=東急シアターオーブ

*次ページで来日公演観劇レポートを掲載しています!*

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