『フレンチ・ミュージカル・コンサート2014』
10月17~19日=東急シアターオーブ
『フレンチ・ミュージカル・コンサート2014』
【見どころ】
12年の開場以来、海外から様々な大作ミュージカルを招聘してきた東急シアターオーブ。なかでも『ロミオ&ジュリエット』『ノートルダム・ド・パリ』でその勢いを印象付けたフレンチ・ミュージカルの名曲の数々が、今年から始まる「ワールド・ミュージカル・コンサート・シリーズ」第一弾『フレンチ・ミュージカル・コンサート2014』で一挙披露されることになりました。
出演はジャン・バルジャン役者として世界的に知られ、『ノートルダム・ド・パリ』ではフロロ役で圧巻の歌唱を聴かせたロベール・マリアンを始め、『ロミオ&ジュリエット』のロミオ役シリル・ニコライ、『ノートルダム~』のカジモド役マット・ローランら、世界的に活躍するスター達6名。また彼らの発案で日本人ゲストとのコラボが実現し、17日は鈴木綜馬さん、18日は今井清隆さん、19日は山本耕史さんが登場します。英米ミュージカルとはまた一味異なるフレンチ・ミュージカルの魅力を、音楽面から堪能できる機会。何とも贅沢なコンサートをお見逃しなく!
【観劇ミニ・レポート】
土屋茂昭さんによる、中央に屹立するオブジェが印象的なセットで展開するコンサート。全曲がフレンチ・ミュージカルかと思いきや、第二部では「フランスを舞台にしたミュージカルも」と、日本でもお馴染みの『オペラ座の怪人』『レ・ミゼラブル』が登場します。
幕開きは『ノートルダム・ド・パリ』来日メンバーでもあったリシャール・シャーレによる「カテドラルの時代」。低音から高い尖塔をのぼってゆくがごとく上がるメランコリックなメロディに乗せ、たっぷり目の歌唱でフランス語の響きが場内を包みます。この一曲で、観客は中世フランスのダークな物語世界へとトリップ。改めてリシャール・コッシアントによる楽曲の魅力を再確認させられます。
『ノートルダム~』でカジモドを演じていたマット・ローランは今回は仕切り役も兼ねており、トークでは日本語も交えながらフレンドリーな素顔を披露。来日公演では醜い役のメイクでしたが、今回は素顔で「ダンス・モン・エスメラルダ」や自作のミュージカル『ランボー』のナンバーを熱唱しています。『ロミオ&ジュリエット』の来日メンバー、シリル・ニコライは同作の「エメ」を甘く、『太陽王』のロック調の革命ソングはファルセットを駆使して歌っていますが、ロックコンサートととは違って衝動的な動きがなく、端正に立つ姿が舞台俳優らしい。アンコールでは(なぜかフランスにはゆかりの無い)「スーパースター」(『ジーザス・クライスト=スーパースター』)を、空突き抜けるようなまっすぐな声で歌い、魅了してくれました。
そしてこの日のスターと言えば、『レ・ミゼラブル』を世界4都市で演じたバルジャン役者こと、ロベール・マリアン。『ノートルダム~』では彼がフロロを演じたことで、単純な愛欲からエスメラルダを貶めるのではなく、時代の変化にそれまで自分が信じてきた世界観を脅かされる中で、彼女が死守した「自由な精神」を認めるわけにはいかなかったという役の背景が明確になっていましたが、今回もそれがまざまざと思いだされる歌唱を披露。もちろん『レミゼ』のナンバー(この日は「彼を帰して」)や高音楽々の「ミュージック・オブ・ザ・ナイト」も歌っていましたが、一番のサプライズは「スーパースター」の女性コーラスに、裏声で楽しそうに参加していたことでした。(なんという声の持ち主でしょう!)。
フランス側の希望で実現したという日本人ゲストは、この日は鈴木綜馬さん。ソフィー・トランブレーさんと英語で「オール・アイ・アスク・オブ・ユー」をデュエットし、ソロではフランス語で「愛の讃歌」を歌っていましたが、フランス人、カナダ人(シリルさん、ナディアさん以外のメンバーはカナダ出身)の中で歌もトークも終始堂々。この日の「日本代表」の大役をみごと果たされていました。今後日本でさらにフランス産ミュージカルが上演され、観客の中の「フレンチ・ミュージカル」ストックがさらに増えた頃、またぜひ開催されることを期待したいコンサートです。
『ワルツ~カミーユ・クローデルに捧ぐ~』
10月28~29日=近江楽堂(東京オペラシティ3階)
『ワルツ~カミーユ・クローデルに捧ぐ~』
【見どころ】
フランスを代表する女性彫刻家、カミーユ・クローデル。ロダンに師事し、様々な作品を制作するものの、彼女は自身の芸術が認められないことに苦悩し、やがて精神を病んでゆく……。
19世後半から20世紀にかけて、まだ女性の社会進出に理解が乏しかった中で孤高の生き方を貫いたカミーユ・クローデルの生涯を朗読と歌でつづった『ワルツ~カミーユ・クローデルに捧ぐ~』が、三田和代さんの朗読、そして『三文オペラ』での悲哀と虚無感を湛えた演技が記憶に新しい島田歌穂さんの朗読と歌で上演されます。
島田さんはクラシックの歌曲や、「もしもピアノが弾けたなら」等のヒット曲で知られる坂田晃一さんが本作のために作曲したオリジナル・ナンバーを歌う予定。室内楽に適し、客席わずか100席の近江楽堂で、カミーユの心に寄り添うような濃密なひとときを体験できそうです。
『ワルツ~カミーユ・クローデルに捧ぐ』写真提供:ガイアデイズファンクションバンド
【観劇ミニ・レポート】
東京オペラシティ内に、礼拝堂をイメージして作られたという室内楽ホール、近江楽堂。十字架を思わせる切り込みの入った天井からは昼は柔らかな光が注ぎ込み、舞台を囲んで四方に花びら状に広がる客席スペースにはそれぞれ数十の椅子が。開演時刻になると知的好奇心に満ちた観客たちの視線を集めながら、中央の舞台スペースに置かれた椅子に二人の女優が腰かけ、物語は始まります。
ロダンの弟子、そして後に愛人となりながら、女性であるがゆえに芸術家として正当に認められず、徐々に精神に異常をきたしていったカミーユ・クローデル。物語は主に彼女と同時代の架空の女性の視点で、三田和代さんの流麗な朗読によって進行。そこに島田歌穂さん演じるカミーユの「心の叫び」が台詞と歌によって差し挟まれ、彼女の真実へと肉薄してゆきます。
作者・宮本尚子さんの分身とも言えるこの「私」の、カミーユを理解し、彼女の苦悩をシェアしたいという真摯な姿勢が物語をより身近に感じさせ、島田さんの丹念な歌唱をいっそう印象深いものに。坂東祐子さんによるカミーユをイメージした舞踊を経て、最後に島田さんが歌う坂田晃一さん作曲の哀切な「カミーユのワルツ」が、ゆっくりと体に沁み渡ります。1時間10分ほどの、コンパクトながら美しいひと時。これぞ大人のエンタテインメント、同様の舞台のシリーズ化が待たれます。