『Studio 323 ミュージカル・アサ・コンサート』
9月9、12、17、20日=カフェ・サルバドル『Studio 323 ミュージカル・アサ・コンサート』
【見どころ】
朝7時半から観られる演劇をご存知でしょうか? 丸の内のOL二人が「朝活の新しい形」として始めたシアター・アット・ドーンは、域内のレストランなど様々な場所を舞台に、演劇、落語、コンサートなどを不定期に企画、実施しています。そんな彼女たちの最新イベントが、阿川建一郎さん、家本朋子さんら日替わりで3人の俳優を招いて行うミュージカル・コンサート。プログラムも「ディズニーもの」等、日替わりとなります。
朝食付きで2500円という破格の入場料もさることながら、定員25名という超・濃密空間で、プロの役者の歌唱が出勤前に丸の内のカフェで楽しめるという、贅沢なコンサート。8月18日(月)12:30からネットで予約開始(上記リンクはこの時刻からオープン)とのことですので、お早目に!
『Studio 323 ミュージカル・アサ・コンサート』9月12日公演より。写真提供:シアター アット ドーン
【観劇ミニ・レポート】
筆者が観たのは最終日程の20日。満員御礼状態の中、劇団四季出身の阿川建一郎さん、家本朋子さん、石井雅登さんが登場、「グッドモーニング」(『雨に唄えば』)を電子ピアノの伴奏で歌います。軽快な曲調ではありますがさすがミュージカル俳優、体の芯から発せられるお三方のまっすぐな歌声には、格別の厚みが。
『Studio 323 ミュージカル・アサ・コンサート』9月17日公演より。写真提供:シアター アット ドーン
この日のテーマは「丸の内の街角から」ということで、『ミス・サイゴン』の「サン&ムーン」、『モーツァルト』の「僕こそ音楽」、そして『エリザベート』の「闇が広がる」「私だけに」といった、丸の内界隈の劇場で歌われてきた重量級のナンバーが続々と披露。コーラス6人も加わった『レ・ミゼラブル』メドレーでは石井さんが独自の表現でマリウス・パートを甘く歌い上げるなど、各俳優の個性もうかがえ、楽しいひと時となりました。カフェというカジュアルな空間で、早朝独特の空気の中、目の前で「本物」の歌声が聴けるのは何とも贅沢。次回は来年春ごろの開催を検討中だそうです。
『ファントム オペラ座の怪人の真実』
9月13~29日=赤坂ACTシアター、10月5~15日=梅田芸術劇場メインホール『ファントム オペラ座の怪人の真実』
【見どころ】
ガストン・ルルーの小説“オペラ座の怪人”のミュージカル版と言えば、アンドリュー・ロイド=ウェバー版や既存のクラシック曲を使ったケン・ヒル版が有名ですが、モーリー・イェストンが作曲し、91年に発表された本版は、主人公の内面を大きくクローズアップしているのが最大の特色。異形の者として生まれ、オペラ座の地下で育ったファントムことエリックが、クリスティーヌとの出会いによって愛を求め、葛藤するさまが丹念に描かれます。
今回の上演に際しては新曲が登場!エリックの亡き母ベラドーヴァが息子への愛を歌う「Beautiful Boy」が加わることで、魂の救済というテーマが明確なものとなりそうです。エリックを演じるのは昨年のコンサート『4 Stars』(レポートはこちら)で、ラミン・カリムルーらそうそうたる顔ぶれの中でもひけをとらず、“日本代表”として輝いていた城田優さん。その真摯で情熱的な演技で、エリックの複雑な内面をくっきりと体現してくれそうです。
【観劇ミニ・レポート】
ロイド=ウェバーの『オペラ座の怪人』とは大きく異なり、ファントムとして生まれ育った男エリックの悲劇を深く掘り下げた本作。コンサート『4 Stars』演出での来日時にも「父と子の関係を描いた作品に興味がある」と語っていたダニエル・カトナー(インタビューはこちら)による今回の舞台では、クリスティーヌとの関係に匹敵するほど、エリックとその父の関係がクローズアップされています。
最も感動的なのは終盤の父子の語らい。それまで曖昧にしていたが遂に自分が父であることを告白するキャリエールに、エリックは「知っていた」と言い、二人はしみじみと語り合います。この日開催された公演後のトークショーでも城田さんが指摘していましたが、もっと早くキャリエールが真実を告げ、エリックに人間的な教育を施していれば、彼は殺人を犯すこともなく、「ファントム」ではなく「人間」としての人生を送ることもできたかもしれません。しかしキャリエールにはキャリエールなりの苦悩と葛藤があり、改めて子を持つことの難しさに思いが至ります。エリック役城田さん、キャリエール役吉田栄作さんの演技から、父子ならではの「以心伝心」が溢れる、短くも美しいシーンとなっています。
クリスティーヌ役山下リオさんはこれが初舞台とは思えぬほどの舞台度胸で、二役で演じるエリックの母ベラドーヴァでは慈愛に満ちたたたずまい。オペラ座の新支配人の妻でもある歌姫カルロッタ役のマルシアさんが、プライドに突き動かされ、結果的に滑稽に立ち回る姿を過不足なく表現しています。“オペラ歌手としては「ひどい」歌声”はなかなか加減が難しいかと思われますが、癖のある発声で見事に表現している点はさすがシンガーというべきでしょうか。フィリップ・シャンドン伯爵役日野真一郎さんも今回が初舞台とのことですが、声楽家の風雅なオーラが貴族の役柄にマッチ。他の作品で彼のソロをもっと聴きたいという気にさせられます。
*次ページで『アルジャーノンに花束を』以降の作品をご紹介します!