古く新しい国際都市アントワープの魅力
今日、ヨーロッパの主要都市といえば、なんと言ってもロンドンやパリ。ベルギー国内でもブルージュやブリュッセルが筆頭で、アントワープはやや地味な印象です。しかし、16世紀頃、ここは、欧州中から商人や文化人が集まったアルプス以北最大の国際都市として栄華を極めたのです。
その気風は多様性を受け入れるコスモポリタン。様々な言語の書物を出版する欧州随一の出版拠点としても栄えました。また、ここに住み着いた正統派ユダヤ教徒のコミュニティが、世界最大のダイヤモンド取引市場を形成。近年では、優秀なデザイナーを輩出するファッションの街としての顔も。こうした富と知の蓄積は、今も、アントワープの街のあちこちに残され、訪れた人々を驚かせ、感嘆させてくれます。
では、そんな隠れた魅力いっぱいのアントワープの見所をご紹介しますが、その前に一言。アントワープという地名は、英語の地名をカタカナ表記したもの。現地語(蘭語)では、Antwerpen(アントウェルペン)、ベルギー仏語では、Anversと書いてアンヴェルス、フランスの仏語ではアンヴェールと発音するので、看板や人々の発音に混乱しないでくださいね。
まずはぶらり散歩に最適な4つのスポット、アントワープ中央駅、王宮周辺、旧市街、スヘルデ川沿いから。
アントワープ中央駅
地元の人が、自慢の宮殿のひとつに数えるとさえ言われるのが、ベルギー国鉄のアントワープ駅。その芸術品のような雄大で美しい駅舎は、19世紀末から20世紀末に建築されたもので、鉄立国ベルギーの栄華を感じさせる鉄とガラスを多用した傑作です。かつては欧州らしいターミナル駅(到着した電車が、発車するときは後方から出発するスタイル)でしたが、近年、タリスなどの欧州縦断国際特急を通過させるための大規模な改修工事が行われ、地下数百メートルも掘り下げて、直進することのできる列車のホームが作られました。このため、巨大な吹き抜け天井を望む見事な立体構造の駅となりました。アントワープには、中央駅とは別に、Antwerpen-Berchem(アントワープ・ベルヘム)という駅もあるのであわてて飛び降りないように要注意。駅内には、観光案内所の他、飲食店やダイヤモンド店が多数入っています。また、駅周辺にはダイヤモンド取引街、中華街、世界最古の動物園、ホテルなどがあります。どこの駅でもそうですが、夜間には駅の周りはあまり治安が良くないので、充分な注意が必要です。
多くの観光名所のある旧市街へは、商店街メール(Meir)を突き抜けて徒歩20分ほど。または、地下を通るトラムでも簡単に到達することができます。
王宮周辺
大規模な石造りの重々しい建物が並ぶ商店街メール(Meir)通り。その通りと、ルーベンスハウスのあるワッペル通りとの角に建つエレガントな建物が18世紀に建てられた王宮です。かつてナポレオンが所有していたこともあり、ベルギー独立後は、ベルギー王家のものとなりました。日曜日には内部の見学もできますが、それ以外の日も、この建物の中にあるカフェ・レストランで、ランチやお茶のひと時を楽しみこともできます。<DATA>
■ Paleis(王宮)
住所:Meir 50, 2000 Antwerpen
TEL:+32 3 206 21 21
開館日時:日曜日10:00-17:00
入場料:大人6ユーロ、6歳~11歳および65歳以上、グループ(10人以上)4ユーロ、6歳未満無料
旧市街:マルクト広場、市庁舎、そしてブラボーの銅像
アントワープを訪ねたら、マルクト広場は欠かせないでしょう。ネーデルランドで最初に建てられたイタリア・ルネッサンス様式の市庁舎。そのファサードには、アントワープの守護聖人である聖母マリア像が飾られています。広場を囲っているギルドハウス(職業組合の建物)は素晴らしいものですが、この広場を特徴づけているのは、中央にあるブラボーの像と噴水です。ブラボーとは、伝説のローマ青年勇士で、かつて、スヘルデ川を航行する船から巨額の通行料を徴収していた腹黒い巨人アンチゴンと勇敢に戦い、その手を切り落としてスヘルデ川に放り投げたという市民の英雄です。手(hant)を切り落として投げた(werpen)のが、地名Antwerpen(アントワルペン)の語源とも言われており、街のあちこちに手型のお菓子やモニュメントを見つけることができます。
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■ Stadhuis(市庁舎)
http://www.antwerpen.be
住所:Groote Markt 1, 2000 Antwerpen
TEL:+32 3 221 13 33
*市庁舎内の美しい広間は、観光局で許可証をもらえば、入場して見学することが可能。
スヘルデ川とステーン城
内陸にあるアントワープが、15世紀以降、欧州最大の貿易港となりえたのは、街の中心部をかすめるように縦断するスヘルデ川のおかげ。仏語名はエスコー川(Escaut)で、北上してオランダを通過し北海に通じています。この川が、古くから、アントワープにとって非常に重要な役割を果たしてきたことは明らか。その脇に建つステーン城は、街を守るために建てられた要塞でした。古くは9世紀頃に バイキングから町を守るために使われ、13世紀に石造りとなったことから、「steen」(石)の名が付けられたといわれています。その後、カール5世によって、ほぼ現在ある形へと拡張されたのだそう。長らく海洋博物館として使われていましたが、近年、その展示物は新設の博物館MASに移され、現在は、子ども達のアクティビティホールとして使われています。その美しい姿は今でもアントワープ・スヘルデ川沿いのシンボルと言えます。<DATA>
■ Het Steen(ステーン城)
住所:Steenplein 1, 2000 Antwerpen
TEL:+32(0)3 202 8380
定休:月火、祭日
開館時間:水曜~日曜の午後12:00-18:00
アントワープといえば、バロックの天才画家ルーベンス。次ぎのページでは、ルーベンスに関わりの深い教会を3つご紹介しましょう。