世界屈指の迷宮都市「フェズ旧市街」
ギッサ門の北に広がる「マリーン朝の墓地」から街を見下ろす。城壁の中に広がるのがフェズ旧市街だ
それだけに高層ビルや近代的な建物はほとんど存在せず、中世そのままのイスラム都市がいまに伝えられている。今回はモロッコ最大級の迷宮都市、世界遺産「フェズ旧市街」を紹介する。
世界遺産「フェズ旧市街」を迷い歩く
マリーン朝時代に建てられた神学校、ブー・イナニア・マドラサ。大理石と木の組み合わせ、彫り込まれたアラベスク、ステンドグラスが本当に美しい。イスラム圏では偶像崇拝が禁じられていたため、このような幾何学紋様や植物紋様が発達した
多くの観光客はこのブー・ジュルード門を通ってフェズ旧市街に足を踏み入れる。この先に続くのがタラー・セギーラで、遠くに見えるミナレット(塔)がブー・イナニア・マドラサ
方向感覚に自信があるうえ、迷い歩くのが好きな自分は地図など見ずにどんどん歩く。中心には2本のメインストリート、周囲には城壁があるわけだから、迷ってもそのいずれかに出るはずなのだから(と思っていた)。
この迷い歩きが楽しい! フェズ旧市街は8世紀以降に造られたとても古い町。数十あるというモスク(イスラム教の寺院)やマドラサ(モスク付属の高等教育機関。大学に近い)のような建物が美しいだけでなく、木と石を組み合わせた中世の家並みや装飾タイルやモザイク、ドアや窓枠に彫られたアラベスク(イスラム式幾何学紋様)、駆け回る子どもたちがとんでもなくフォトジェニックなのだ。
いまも運搬手段として活躍しているラバやロバ
こうなるともうガイドブックを見ても意味がない。仕方がないので商店のご主人や遊んでいる子供たちに道を聞いたりメインストリートまで連れて行ってもらったり。こうした一般の方々はとても親切。「日本は大好きだ」という人も多く、こんな出会いもまた楽しいものなのだ。
フェズ旧市街の迷い方
建物の下を抜ける通路と、そのスペースを活かした磁器店。タラー・セギーラとタラー・ケビーラのようなメインストリートでさえこのようなところが多々ある
マリーン朝のブー・イナニア王が建立したブー・イナニア・マドラサ。木と石の組み合わせが見事
さてさて、迷い方だ。際限なく迷っていたら何十時間かかるかわからないので、迷う範囲を定めておこう。旧市街中心部のメインストリートはふたつ、タラー・セギーラとタラー・ケビーラだ。「このふたつを歩いている限り迷うことはない」と言われているのだが、「これがメインストリート?」というような道なので、何度も歩いて慣れてきて、はじめてそう言える。
カラウィーン・モスク。フェズ旧市街はいまも敬虔なイスラム教徒が暮らす生きている世界遺産。多くのモスクや廟は異教徒立入禁止
あとはこの調子で歩く範囲を広げていく。カラウィーン・モスク→アンダルース・モスク→フトー門を移動してメインストリートの様子を把握する。そして今度は南へ迷い歩く。こうしてまず基準となる道を定め、そこから一定の方向に逸れていけば大きく迷子になることはないのだ。
フェズ旧市街は城壁や車の走っている大通りに囲まれているので、これらを越えなければ外に出ることはない。
それでも困ってしまったら人に道を聞くことになるが、声を掛ける際はお店の人や家から出てきたご婦人など、その場に住んでいる人を選ぶこと。身元のしっかりしている人なら安心だし、近所の人なら道にも詳しい。ガイドである確率も低いから、お金を請求されることもないだろう。