減圧症・潜水病とは
関節や筋肉の痛み、呼吸困難、知覚障害、めまい、吐き気など、様々な症状が起きる減圧症。スキューバダイビングをされる方も注意が必要です
土木工事の基礎工事などで、地下水が入ってこないように圧縮空気を送り、作業できるようにした箱のようなものを潜函(せんかん)と呼びますが、潜函内では、環境の圧力が上がっているために、作業後に急に外に出ると減圧症を起こします。そのため、「潜函病」とも呼ばれることもあります。
減圧病(潜水病)の発症頻度は、レジャーダイバーが約0.01~0.019%、職業ダイバーが約0.095%といわれています。
減圧症・潜水病の原因
少し専門的になりますが、最初に物理化学の原理について簡単にでも理解しておく必要があります。■ボイルの法則
気体の体積はその気体の圧力に反比例して変化します。つまり、気体の体積は、周りの圧力がかかってくると減少し、周りの圧力がかからなくなると増加します。
■ヘンリーの法則
気体と液体が接している時には、気体が飽和状態になるまで液体に溶け込むが、液体中に溶け込むことのできる気体の量は温度が一定であれば、その気体の圧力に比例します。つまり、気体の種類に関係なく、気体の圧力だけで、液体に溶け込む気体の量は決まってしまうと言うことです。
この2つの法則によって、臓器は主に水分と細胞でできています。周りの圧力が低下すれば、液体に溶け込む気体の量がヘンリーの法則で減り、、ボイルの法則で、体積が大きくなり、気泡を作ることになります。
1Pa(パスカル)は,1平方メートルあたりの力で、1N(ニュートン)です。1気圧は0.1Mpaになります。
減圧症(潜水病)は周りの圧力が急に低下することが原因になります。潜水であれば、水中では、10m深くなると1気圧(0.1Mpa)上昇します。水の中では水圧のため、周りの圧力がかかっているのです。急に浮上することによって、減圧症(潜水病)になるのです。
1Pa(パスカル)は,1平方メートルあたりの力で、1N(ニュートン)です。
気泡が組織を圧迫したり、血液の流れを悪くしたり、血管に作用する様々な物質を産生するように刺激したり、血を固める血小板が集まりやすく、凝固因子が働きやすくなったり、血管から血液が出ていきやすくなり、流れている血液量が減少したりします。
減圧症・潜水病の症状
潜水後、浮上の数時間以内に手足の関節部の痛み、息が詰まる、体が動かなくなるなどと言った症状で発症します。浮上から30分以内に50%、1時間以内に85%、2時間以内に95%が発症しますので、多くは2時間以内に発症します。
減圧病(潜水病)の病型としては
- 皮膚型:ちくちく刺されるような痒み、皮下に空気がたまる皮下気腫
- 運動器型:四肢の関節や筋肉の痛み、特に肩や肘の関節での症状が多く、ひどい時には骨が壊死状態(組織が破壊された状態、腐った状態)になります
- 呼吸循環型:息が詰まる感じの胸が苦しい、呼吸困難、脈が速くなる頻脈、血圧低下、ショックになります。肺破裂、肺に水がたまる肺水腫、肺高血圧、心臓への栄養血管である冠動脈の空気塞栓による心筋梗塞
- 中枢神経型:運動麻痺、知覚障害、尿が出ない尿閉、内耳への血管の閉塞や急な減圧によるめまいと聴力障害、吐き気、立つことができない起立障害、腹痛など
減圧症は、損傷した部位に応じてⅠ型減圧症、Ⅱ型減圧症に分類されることもあります。
Ⅰ型減圧症は、筋肉関節型(ベンズ)、皮膚型で、Ⅱ型減圧症は呼吸循環型(チョークス)、中枢神経型となります。
減圧症・潜水病の治療法・対処法
気体は基本的に上へ向かいます。それは人間の身体でも同じで、頭部や心臓への気泡を防ぐために、頭部を下げて左側臥位にします(左を下に横に)。肺破裂の場合は酸素吸入をします。静脈から大きな静脈までカテーテルを入れて、気泡を除去します。
全身に症状が出ますので、全身管理が必要で、骨の壊死状態の場合は、手術することもあります。
高圧タンクによる再圧治療(再び周りに圧力を上げる治療)が行われることがありますが、これらの設備は一般の医療機関には常備されていません。
再圧には、酸素再圧と空気再圧があります。酸素再圧の方が、再圧の圧力が低く、時間が少なくて済みます。しかし、火災と酸素の有害性もありますので、設備面や技術を必要とします。再圧室の操作も既定の特別教育を受けたものでなければなりません。
再圧室は、最大圧は5気圧までかけることができ、広さは人ひとりがゆっくりと寝られる程度です。急に減圧された時点の圧力までゆっくりと加圧して、もとに戻すためにゆっくりと減圧しますので、時間のかかる治療です。術中は必ず、再圧室を扱う操作員は再圧室を離れることはできません。
減圧症・潜水病になりやすい条件
□水深10m以上で深く長く潜水する□急激な浮上や潜水深度・時間から見て急激・背適切な浮上をする
□1日の繰り返し潜水し、潜水回数が多い
□高年齢
□太っている
□二日酔い、疲労状態、脱水状態にある
□関節部の打撲傷や運動器疾患がある
□水温が寒冷
□潜水中の作業が激しく、潜水後に運動をする
□同一深度・時間での潜水を日々繰り返す
減圧症・潜水病の予防法
- 潜水深度が大きくなるほど、1回および1日の潜水時間を短くする
- 段階式の浮上をする
- 短時間での頻繁な潜水を避け、深い潜水なら1日1回にする
- 浮上時の酸素呼吸をし、窒素ガスを洗い出し排出する
- 浮上後速やかに、超音波検査などで体内気泡検査を実施する
- 肥満の方や高齢者などの潜水は避ける
- 保温力のある潜水服を使用する
- 浮上後は安静を保つ
- 水分を摂取する
もし、再圧が必要な場合は、早期に医師に連絡することをお勧めします。ただし、再圧室のある医療機関がどこなのか確認しておきましょう。
海外旅行や島でのダイビングをすることもあるかと思いますが、ダイビング終了後は、飛行機搭乗まで少なくとも18~24時間以上、減圧潜水をした場合は24~48時間以上の時間を空けることが推奨されています。
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