「建てる」という作業は「作る」ものでも「造る」ものでもなく「創る」もの。クリエイティブな作業の連続となる。
私ガイドは以前、不動産会社に勤務していましたので、多くの人の「買う」という行為を目にしてきました。新築分譲マンションの販売センターでは、来場客が図面集に記載されたAタイプ、Bタイプ、Cタイプ……の中から気に入った間取りを選び、自分たちの希望に近いプランを見つけていきます。要は、マンションを「買う」という作業は「選ぶ」という作業に等しいのです。
他方、「建てる」という作業は「買う」という作業とはまったく異なることを、両親宅の新築を経験して体感しました。マイホームの新築は「作る」ものでも「造る」ものでもなく、「創る」ものだと実感しました。両親の日常生活をイメージしながら、その光景(生活習慣)を図面に落とし込み、その図面をもとに職人たちの手によって形にしていく作業が「家を建てる」という行為です。「どれにしようかな……」と物件を選ぶ行為とは“似て非なり”でした。クリエイティブな作業の連続なのです。実に奥深く、両親宅の新築を通じて、その醍醐味を味わうことができました。
さて、早いもので第4回目となる両親のための高齢者仕様住宅の新築連載シリーズ。今回は業者選定以上に難航した、間取り作成の苦労話をご紹介します。
「買う」と「建てる」は大違い! 最初に提案された間取りは両親に不評
再び新築マンションの話に触れますが、郊外のファミリー向けマンションの間取りは、どれも似たり寄ったりです。なぜなら、取りこぼしなく1人でも多くの人に買ってもらえるよう、売り主が万人受けする最大公約数的な間取りを設計依頼するからです。売り主は建物が竣工するまでに、すべての住戸を売り切らなければなりません。そのため、個性の強い独創的な間取りはどうしても設計しにくくなります。これに対し、一戸建ての注文住宅は万人受けする必要はありません。今回のケースでは父と母の2人を満足させられれば、それでいいのです。両親の生の声を聞き、その希望通りに設計・建築すればいいわけです。他人を意識する必要はありません。しかし、口で言うほど話はそう簡単ではありませんでした。
細田工務店から最初に提案された間取り(1階)が下図です。「当該地は南北両方が道路に接している縦長の宅地で、南側の道路がやや下がっています。そのため、高低差の少ない北側の道路からアプローチし、南側の間口を確保するのがセオリー」(設計担当者)という考え方から図面が作成されました。トイレと洗面所・浴室を一カ所に集中させ、母の部屋(ベッドルーム1)に隣接させるなど、高齢者対応を意識している点が感じられます。ただ、両親には不評でした。
- 駐車スペースは不要
- 玄関は南側にしてほしい。
- ダイニングキッチンに窓が少ない。キッチンには窓が絶対ほしい
- 洋室の腰高窓は出窓にしてほしい。
- トイレは独立型(1つの個室)にしてほしい。
何年も前に父は自動車免許を返納しており、また、引っ越しを機に父は家庭菜園をやりたいという希望を持っていたため、駐車場スペースは取りやめ、菜園ができる庭の新設を希望しました。
さらに、玄関を南側へ変更するよう強く要望しました。これは両親の個人的なこだわりなのですが、すぐ近くにある現在の両親宅から両親が引っ越し後、私ガイド(息子)がそこに住む予定でいます。そのため、行き来のしやすさを考慮して玄関を南側へ変更するよう要望しました。
同様に、トイレと洗面・脱衣所を一体設計したプランについても母から要望が出されました。高齢者仕様を意識すれば当然の配慮(設計)になるわけですが、一体設計には母親が抵抗を感じていました。どうやら母には将来的な車イスでの生活想定を嫌気している節があり、トイレ単独での個室タイプを強く希望しました。設計担当者に配慮不足があったわけではありません。せっかく高齢者配慮の設計を要望しておきながら、なぜか逆行していく一種の矛盾が顕現してしまった格好です。
最初の打ち合わせでは、具体的な要望を工務店側に綿密に伝えていませんでしたので、両親と工務店との間でイメージギャップが生じてしまった結果といえます。
次ページでは、要望を反映させた修正後の間取りをご紹介します。