第14回神戸新開地音楽祭
新開地音楽祭2014
5月10日、11日に開催された第14回神戸新開地音楽祭。(第13回の記事はこちら『新開地音楽祭2013 山本リンダ ミッキー吉野』)
普段は競艇施設『ボートピア』や立ち飲み屋に向かう人がポツポツ歩いている程度の新開地だが、この日ばかりは様子が違う。
メインステージのある湊川公園には数々の屋台が出並び、飲食はもちろんショッピングも楽しむことが出来る
新開地駅周辺の湊川公園、商店街、地下街などに設けられた大小8ヶ所のステージで、さまざまなジャンルのシンガー、バンドがガンガン演奏を響かせており、それを目当てにしたお客たちでそこかしこに人だかりができている。
新開地駅周辺の8ヵ所にステージが設営される。新開地音楽祭には2日間で約8万人が訪れるという。
この音楽祭で演奏される音楽には、若者ナイズされたクラブミュージックや前衛的なロックなどはまったく含まれていない。新開地音楽祭で幅をきかせているのはブルース、ジャズ、70年代以前のロック、演歌、歌謡曲など、いわゆる大人の音楽。地元の飲食店や酒造メーカーも積極的に屋台を出店しており、観客はお酒の一杯もかたむけながら、縁日的なまったりしたムードの中で音楽を楽しむことができるのだ。
個性的な出演者たち
僕が二日間取材した中で印象的だった出演者は『ピンクルビー』(『ピンクレディー』コピーバンド)
『渚のシンドバッド』などピンクレディーのコピーで関西を中心に活躍する『ピンクルビー』。
『INA2011』(『TOTO』コピーバンド)
地元の同級生の間で結成されたという『INA2011』。『TOTO』のテクニカルな楽曲を再現する手腕はなかなかの実力派だ。
『ミソラン』(美空ひばり弾き語りカバー)
地下街『メトロ神戸』のステージで演奏した『ミソラン』。独特のふるめかしいムードの中で二人の美空ひばりナンバーが響く
『Gleeeeeeeeeee club!』(米ドラマ『グリー』的な感じ)
アメリカの人気ドラマ『glee』をほうふつする迫力で歌い踊るメンバー。新開地音楽祭にはめずらしくフレッシュなステージングだったが、つられて踊りだす観客多数。
『CHICKEN THE SUN』(ロカビリーバンド)
前身『GERBILS』でも新開地音楽祭に出演していた常連組。硬派かつポップなロカビリー、ロックンロールを得意とする人気バンドだ。
など。
それぞれ背景は異なるミュージシャン達だが、一様に自らのルーツに忠実で音楽に対する愛情が伝わってくるステージングだった。
高校時代の音楽仲間で結成された『INA2011』のボーカル、田邉喜美(たなべ よしみ)さんは語る。
『INA2011』のリードボーカル、田邉喜美さん。飲み歩きが趣味で新開地へは普段から常連ということ。
「30年以上ぶりにみんなで集まって音楽をやっています。今年で2回目の出場なんですけど、これを楽しみに続けていけてるんだと思います。練習を重ねていつかはメインステージに立ちたい。『新開地音楽祭』は僕たちの活動のペースメーカーですね。」
メインゲスト タケカワユキヒデ
今回、新開地音楽祭の目玉となったのはなんと言ってもタケカワユキヒデ。タケカワユキヒデ
ゴダイゴ時代にポートアイランドで開催された博覧会『ポートピア'81』のキャンペーンソングを手がけるなど、なにかと神戸に縁の深いアーティストである。
1980年にリリースされスマッシュヒットを記録すると共に同年の紅白歌合戦でも歌われた『ポートピア』
このブッキングには伏線がある。
昨年、『土岐英史スペシャルプロジェクト』のキーボーディストとして新開地音楽祭に参加していたミッキー吉野に、主催の地元商店街関係者が「来年はゴダイゴでお願いしますよ~予算とかあんまりないけど……」
とステージ上で直接交渉したのだ。
その時は「えぇ、まぁ……」と大人の対応だったが、結果的にミッキーは彼を見捨てなかったわけだ。
予算がない前提で大物アーティスト(しかもバンド)を呼ぼうというあまりにアレな発想に、真摯にこたえたミッキーとタケカワ……イメージ通り"愛の人"だな。
オリジナルヒット、歌謡曲、ビートルズ……
タケカワユキヒデの魅力あふれるステージ
今回のタケカワユキヒデの演奏スタイルは手製の打ち込みオケを使ったピアノ弾き語り。ピアノ弾き語りスタイルは、シンプルながらもじわじわと心に染み入ってくる
『ガンダーラ』、『モンキーマジック』と大ヒット曲を続けて会場をあおった後に「やっぱり神戸なので……」と『ポートピア』。しんみりと流れる美しいメロディーを数千の観客が共に口ずさむ。ちょうど日暮れ時にあたり、赤から青に変わる空の下で豊穣な時間が流れていった。
他の演目が終わり、メインステージに押し寄せた数千人の観客
冒頭3曲ですっかり観客の心をつかんだ後は『恋のバカンス』、『上を向いて歩こう』といった歌謡曲。カバー続きで『イエスタディ』、『ザ・ロング・アンド・ワインディング・ロード』といったお得意のビートルズナンバーも飛び出す。ファンや音楽通の間ではタケカワがビートルズに傾倒していることは有名な話だが、今回のように先入観の無い客層にとっては新鮮だったのではないだろうか。
「僕ほんとにビートルズマニアで、中学1年から高校2年までコピーバンドやってたんですよ。何が幸せだったかって言うと、ビートルズがまだ活動している時だったので、新しいアルバムが出るとそれをコピーできる時代だったんです。そんな僕たちの自慢が一つだけあるんですよ。僕ら、ビートルズより先に解散したんです(会場爆笑)。ビートルズが解散する時はその気持ちがすごくわかりました。」
自らの原体験を語りながら、おそらく観客の中に何%か含まれているであろう老若のミュージシャン達と心をシンクロさせるタケカワ。
締めとして『ビューティフルネーム』を歌ったが拍手が鳴り止まず、アンコールではこの日メインステージに出演したキャスト全員を引きつれて『銀河鉄道999』を合唱した。
この日メインステージに出演したメンバーたちと『銀河鉄道999』を合唱
来年40周年を迎えるタケカワユキヒデに注目
タケカワユキヒデは今年でデビュー39年目を迎える。来年、2015年には40周年ということで大きな動きもあるに違いない。このコーナーでも取材対象としてぜひとり上げていきたいものだ。そして来年の新開地音楽祭メインゲストは○沢○吉?
両日とも好天に恵まれ、盛況のうちに幕を閉じた第14回神戸新開地音楽祭。年々、規模を増しつつあるイベントだけに来年の内容も気になるところ。
僕は今回の取材の通りがかりで、去年ミッキーにゴダイゴ出演を直談判した主催関係者とおぼしき中年男性が
「来年は○沢○吉(日本を代表するロックシンガー)でも呼んだるか!ガハハ!」
と話しているのを耳にした。
それが実現すれば大したものだが、さてどうなりますやら……第15回神戸新開地音楽祭の発表を楽しみにしたい。