観音様にこめた世界平和への思い
長谷川昴氏作の聖徳太子像。木の温もりを感じる作風は「現代の円空」と称されました
そのひとつは彫刻家、長谷川昴(こう)氏との出会い。千葉県鴨川市出身の長谷川氏は当時、新進気鋭の彫刻家として活躍していましたが、彫刻用の木材を発注していた業者の不祥事によって、展覧会の期日までに材料が間に合わず途方にくれていた時に、同郷の宇佐美翁と知り合って材料を無事入手することができました。以来、ふたりは固い絆で結ばれ、長谷川氏は東京湾観音の原型と胎内にまつられた諸尊の像を制作することとなりました。
もうひとつは現在観音様が立つ大坪山との出会い。大観音建立の地を求めて千葉県各地を巡っていた宇佐美翁がこの地を訪れた際に、美しい青海原とその彼方にそびえる富士山を見て、世界平和を祈念する地にふさわしいと考え、この地に大観音像を建立することを決意したそうです。
そして構想から5年の歳月をかけて東京湾観音は完成し、1961年9月に開眼供養が行われました。建設の際は宇佐美翁自ら陣頭指揮に立ったそうで、胎内の諸尊のひとつに「マリア観音」がまつられていますが、仏教国だけでなくキリスト教国である欧米諸国の戦没者も供養し、国境や宗教を越えて世界平和を祈念したいという宇佐美翁の意思によるものです。
東京湾観音の胎内にまつられるマリア観音像。世界平和を静かに祈り続けています
人生は浦島太郎のごとし
観音様の正面には、観音様を見上げるようにして一体の不思議な像があります。それは亀に乗った浦島太郎。実はこちらも長谷川氏に依頼して建立した宇佐美翁の分身ともいえる像。少年時代に奉公に出てから、起業、戦災、復興、そして大観音像建立と、様々な経験の日々を夢中で駆け抜けてきたうちに、ふと気がついたらおじいさんになっていた自分自身を浦島太郎に重ね合わせて。そんな太郎を観音様は優しく見守っています。「観音様からは天候が良ければ富士山や東京スカイツリーも見えます。豊かな自然の中で世界平和を祈っていただけたら嬉しく思います」と東京湾観音支配人の藤平さん。
観音様が見つめるこの素晴らしき世界がいつまでも続きますように。
東京湾観音を見上げる浦島太郎の像。世界平和に一生を捧げた宇佐美翁の心の風景
■東京湾観音
千葉県富津市小久保1588
0439-65-1222
ホームページ:http://www.t-kannon.jp/
地図:Yahoo!地図情報