いつか“舞台人として死ぬ”ために
――一フリーになってからは『ジキル&ハイド』『アリス・イン・ワンダーランド』『二都物語(関連記事はこちら)』とダークなお役が続きましたが、自身のご意向もあったのでしょうか?
『アリス・イン・ワンダーランド』写真提供:ホリプロ
『二都物語』写真提供:東宝演劇部
「自分で意図しているわけじゃないところが、味噌ですよね。私がこういうのをやりたいからということではなく、自然とそうなっているので。でもここで『ラブ・ネバー・ダイ』をやらしてもらったのは大転換ですね。劇団に居たら『オペラ座の怪人』のクリスティーヌは演じることは無かったと思いますし……」
――濱田さんを「演技」に駆り立てるものは何でしょうか?
「お客様と2時間ないし3時間を共有するのは一つの奇跡だと思うのですが、観終わると、お客様の中では何かが変化しますよね。反感を覚えることもあるかもしれないけれど、人生観が変わることもある。それを、カーテンコールで感じることができるのが、私にとっては一番大きいです。時間をかけてお金を払ってわざわざ来て下さる人たちに対して、少しでも“何かできたかな”と思える瞬間がカーテンコール。それが一番のモチベーションですね。
これが発見できたのは実はすごく遅くて、劇団に居た頃はやることで精いっぱいで、こんなに下手くそで必死に舞台であがいているのに拍手までいただけて、と申し訳なさでいっぱいでした。お辞儀しながらも“次はもうちょっとうまくやります”という気持ちで。『ウィキッド』をやっているときもずっと、自分は不器用で人よりいっぱいやらないと追いつけないし、求められるクオリティには達してないと思っていたから、エルファバとしてお辞儀するときも“すみません”という感じだったんですよ。でもフリーになって少しだけ余裕が出てきて、いろんな先輩方にお会いして、先輩方がファンの方々と、決していっぽう方向ではなくて、お互いに喜びに溢れた気持ちを共有しているんだと知るなかで、私もお客様たちと時間を共有できることが嬉しいんだと気づいたんです。きっと基本的には私は孤独で、だからこそ“共有できる時間”が嬉しいんですね。あくまで、自分が歌って踊って芝居してというところでの満足感ではないです。自分に厳しいんでしょうか。それすらも気づいていません」
――だからこそ、第一線にいながらもさらに向上を続けていらっしゃるのですね。
「いろいろ課題が見えてきたんですね。これは出来た、でもこっちは出来てない、と。満足という言葉が自分の中にはないんだと思います、充実感はあっても満足はない。いつも自信がないし申し訳ないと言う気持ちが付きまとっていて、それを払拭することはたぶん、死ぬまで無理です。けれどそれがあるからこそ、続けることができるのだと思います」
――今後はどんな表現者を目指していらっしゃいますか?
「出来れば常に白いままで、どの役にも染まって行ける役者になりたいですね。繊細にもダイナミックにも表現ができて、いろんな色がバンと出る。さらに幅を広げられる、立体的な役者になっていきたいです。“自分を観て!”という方向には全然興味が無いですね。むしろ、人の後ろにいたいです。『ラブ・ネバー・ダイ』でも、自分が良かったなと思えるのは、ファントムがいかに素敵に見えるかを終始考えながら、ポジショニングがとれた点。楽をしたいというわけじゃないですよ(笑)。自分が自分がという気持ちが無いので、今回の『カルメン』でも、絶対的にやらなければならないポジショニングは腹を据えてやりますけれど、ダンスシーンでみんなが踊っていてそれが素晴らしかったら“最後まで踊り続けてて!”という気にすらなります。私は“無い”でもいいんです」
――濱田さんにとって、人生の情熱の源とは?
「うーん、情熱ですか。何かありますか?情熱を持って生きてますか?」
――私は、この世のポジティブな事象を、文字を通してたくさんの人と共有したいという気持ちですね。
「そうですか。私は強いて言うなら、“舞台人として生きるためにやらなければならないこと”を必死にやっていく、ということかな。今だったら、カルメンとして生きるためにやらなければならないことをやるのが、自分の情熱。カルメンが終わってちょっとほっとできるとしたら、その期間に情熱をもってほっとする。でも仕事を途中で休止したりというのは自分の中の青写真の中にはないので、きっと芝居は続けていくと思います。がつがつせず、その時その時の仕事を的確に、ストイックにやっていくということでしょうか」
――これからも、その時その時の濱田さんの演技を楽しみにしています。
「ありがとうございます。ぜひポジティブにまとめて、皆様に発信して下さいね(笑)」
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濱田さんへの取材、筆者は実に10数年ぶりですが、飾らない、気さくな人柄は昔と変わらず。「飾りたてたりということ、邪魔くさい。人とは常に本質で語り合いたい」という濱田さん、演出家の小林香さんから「カルメンぽい」と言われているように、本質的な意味で非常にカルメンに近い部分があるのかもしれません。ここには書けないのですが、芝居のためにすべてをなげうち、壮絶な日々を乗り越えてきた彼女が今、この時期に出会ったカルメン。もしかしたら生涯の当たり役に?という予感の漂うお役です。
*次頁で観劇レポートを掲載しました*
*公演情報*『カルメン』
2014年6月13~29日=天王洲銀河劇場