おひとりさまは親の介護費用を負担する可能性大
老後をおひとりさま、つまり独身で迎えるにあたっては、生活費だけなく介護費用も重要なポイントです。 まず、存命の親の介護費用から考えてみましょう。親の介護費用は、親自身の公的年金と貯蓄で賄ってもらうのが原則。ですが、長生きして貯蓄を取り崩してしまい、公的年金だけでは介護費用を賄えなくなることもあり得ます。そんな場合は、子どもたちが負担するケースが多いでしょう。別居の子どもたちも負担してくれればいいのですが、同居の子が負担せざるを得ない状況になるかもしれません。同居しているのが「おひとりさま」なら、なおさら負担せざるを得ないでしょう。
公的介護保険の自己負担分も含めて、どれくらいお金が不足するのかは、ケースバイケースです。両親ともなのか、どちらか一方なのか、要介護度、介護に必要な用具(ベッド、車いす、ポータブルトイレなど)、どこでどんな介護を受けるかで金額は変わります。
特養などの公的介護施設にはなかなか入れない
国は、膨らみ続ける介護費用の負担を抑えるために「施設から在宅へ」の政策をとっていて、今後はさらに拡大される模様です。ですから、公的な介護施設には簡単に入れないと思ってください。特に、同居家族がいる高齢者は「家族に面倒をみてもらえば……」とばかりに、施設入所の優先順位は遅くされがちです。運よく介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム=特養)に入れたとしても、受ける介護サービスの内容にもよりますが、月13万~15万円程度かかります。これ以外に、おこづかいが必要であれば、その分もプラスになります。
民間の高齢者向け住宅は高額な一時金が必要なことも
特養に入れない、特養の入所待ちをしている間は、民間の高齢者向け住宅を利用することになります。これは大きく分けて、サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)と有料老人ホームがあります。サ高住はいわゆる賃貸住宅で、見守りや介護サービスなどがついているので一般の賃貸住宅より割高です。費用は、特養よりは高いけれど、有料老人ホームよりは安いという位置づけです。
有料老人ホームの費用は千差万別です。入居一時金(家賃の前払い的な費用)が設けられている施設が多く、その金額は300万円程度から1000万円以上までまちまちです。中には一時金が何段階かあり、一時金をゼロにして月額費用は高めのプランと、一時金を支払って月額費用が安くなるプランを選べる施設もあります。入居一時金は0円で、安い施設を探しても月20万~25万円はかかりそうです。
親の介護費用の負担額、目安は300万円
介護の経験者に聞いた調査(生命保険文化センター「2021(令和3)年度 生命保険に関する全国実態調査」のP174~)によると、介護に要した費用のうち、住宅の改修や介護用ベッドなどの一時的な費用が平均74万円。月々かかった費用の平均は8万3000円で、介護期間は平均61.1カ月でした。これらを合計すると600万円近くになります。ちなみに、月8万3000円というのは施設介護の人も含めた平均額。在宅介護の平均額は月4万8000円と安くなりますが、それでも介護期間が10年も続けば、500万円以上かかることになるでしょう。
「えー、親の介護費用として、そんなに準備しないといけないの?」と考えると、気分は「どんより」してしまいますよね。親の介護費用なので、親が出すのが基本。そこで、自分が出すのは半分程度と考えて、まずは「300万円」を目指して準備をしましょう。親に使わないですめば、自分の老後の生活費・介護費用に使えますからね。
おひとりさま自身の介護も在宅が常識に?
今後、公的介護保険がどう変貌していくかわかりませんが、親の介護費用のところで触れたように「介護は施設から在宅へ」の政策は拡大される一方でしょう。すると、これから、おひとりさま老後を過ごす人は、ギリギリまで公的介護保険を利用しながら在宅で頑張らないといけません。その費用は、生活費の範疇と考えて、自宅で生活できなくなったときの費用を考えてみます。
おひとりさま自身の介護費用は1000万円が目安
おひとりさまで在宅介護が困難になった場合、特養に優先的に入れてくれるかもしれませんが、あまり期待しないほうが賢明です。すると、民間の介護施設に入所することになります。将来、これらの介護施設の費用はどれくらいが相場なのか。その予測はできませんが、特養よりは高いでしょう。入居一時金なしの安い施設を選んで入所しても、月20万~25万円は覚悟しておいたほうがよさそうです。女性より生涯独身率の高い男性を例に考えてみると、定年まで会社員だった男性の公的年金の支給額(65歳以降)は、月約16万円。すると、介護施設に入所したときの不足額は、月5万~10万円、年間60万~120万円です。この金額に、施設で生活する年数を掛ければ介護費用の目安額を導き出せます。
とはいえ、施設で何年間暮らすことになるかは未知数です。そこで、男性の平均寿命(亡くなる年齢)と健康寿命(他人の世話を受けずに自立した生活ができる年齢)の差が約9年として計算してみましょう。
不足分:年間60万~120万円×9年間=540万~1080万円
これから老後を送る人は、寿命は今より延びるでしょうから、1000万円くらいを目安に考えるといいのでは? 既婚者2人分の用意に比べれば、少ないといえるでしょう。
介護費用の作り方は3つある
さて、親と自分の介護費用をどう作るかですが、他の資金同様「若いころから貯蓄を積み上げる」「お金自身に稼いでもらう(運用)」「何らかの不労所得を得られるようにする」の3つが王道です。また、介護施設に入所した後、住まい(持家)を賃貸したり、売却したりすれば介護費用の補てんができます。これも、介護費用作りのひとつの方法ですね。
なお、費用の準備も大切ですが、要介護にならない「身体作り」や認知症予防のための人とのコミュニケーションも費用準備と同じくらい大切です。こちらにも、それなりのお金を使いましょう。
※All About生命保険ガイド・小川千尋さんの記事を編集部が最新情報に加筆
【関連記事】
介護費用・介護にかかわる各種制度
民間の介護保険は加入したほうがよい?
・参考
生命保険文化センター『2021(令和3)年度 生命保険に関する全国実態調査』
https://www.jili.or.jp/research/report/8361.html